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2007年02月20日

SPEED Applianceによる成人矯正治療について
—その4. 7本巻超弾性矯正線(Supercable)の特性と臨床的使用方法について —

<要旨>
 Supercableは、SPEED Applianceの開発者であるHansonがSPEED Applianceで使用するために1993年に開発したnickel titanium 7本巻のcoaxial wireで、歯の移動に際し究極的に微弱で持続的な矯正力を発現し、永久変形を起こさないarch wireである。SPEED bracketを用いて、bracket間距離10 mmで中央に力を加え1〜3 mmまでの変位をさせる三点曲げ試験を行った結果、Supercableは65 gの持続的な一定の力が変位の解放を通じて生じていた。また、上顎右側側切歯の1〜3 mm の舌側転位を想定して、strain gauge応用の歯列弓模型にて計測を行った結果、SupercableとSPEED bracketの組み合わせは他のnickel titaniumのwireと比較して18.5%〜29.8%の弱い力を示し、歯列内の固定源となる歯にもリアクションが少ないことがわかった。この組み合わせを抜歯症例の初期排列に用いた場合、発現する微弱な矯正力は前歯群のflare outを起こさずに、側方歯群は抜歯空隙に向かってmigrationを起こし排列される。このため、中程度の叢生においては犬歯の遠心移動などによって予め排列空隙の確保を行う必要がない。また、重度の叢生においては、SupercableをSPEED bracketに組み込まれているauxiliary tubeにdouble wireとして併用することにより、排列空隙を確保しながら転位歯の排列を同時に行うことができる。Supercableを臨床で用いる場合の手技や臨床効果についても併せて報告する。

<緒 言>
 矯正臨床医はnickel titanium やβ-titaniumなどの新合金に注目している。それは矯正での歯の移動に際して、stainless steelに比べてより弱く持続的な力を発現するからである。近年、中程度の叢生を有する症例に対しての非抜歯による治療の試みが増えていることからも、より弱く持続的な力を発現する超弾性矯正線にさらに注目が集まっている。 Andreasenら1〜3)は1970年代にNitinolの性状を確かめた。これが形状記憶合金の始まりで、アメリカのNASAでの研究の産物であることは有名である。さらに、Nickel titanium と開発された研究所のNaval Ordinance Laboratoryの頭文字を取っていることもまた良く知られているところである。 Burstoneら4)は1958年に超弾性Chinese NiTiのspring backがstainless steelの4倍もあり、Nitinolの1.5倍であることを示した。NiTiは、大きなspring backを有した低い剛性のwireを必要とされる臨床の場面において非常に有用であると主張している。 三浦ら5)は1986年に引っ張り試験および曲げ試験を通してJapanese NiTiが超弾性を有することを確かめた。そして、このwireの性状は歯の移動に際して他のwireより生理的に望ましい力を発現することを暗示した。 1993年にHansonは超弾性nickel titanium 7本巻coaxial wireであるSupercable
(図1)を開発した。このwireは歯の移動に際し究極的に微弱な力を発現するとされ、永久変形を起こさないarch wireである。この弱い力をWoodsideは講演の中でlight forceより微弱であるとして、minute forceと呼んでいる。 著者はこの論文でSPEED Appliance6〜18)(図2)とSupercableとの組み合わせが発現する微弱矯正力とその持続性ついて検討し、臨床効果について検証し、その使用に際しての手技と注意点とを呈示する。

<Supercableが発現する微弱矯正力の検討>
1. 三点曲げ試験による検討 Toronto大学歯学部矯正学教室のWoodside教授と共同でbracket間距離10mmで中央に力を加え、3mmまでの変位をさせる三点曲げ試験
(図3)を行った結果、Supercableは従来のnikel-titanium wire と比較して1/2以下の有意に微弱であるminute forceを持続的に発現することを明らかにした。

1) 資料および方法 0.022" slotのSPEED bracketを用いbracket間距離10 mmでwireを装着した模型の中央に力を加え、3 mmまでの変位をさせInstron Universal machine
(図4)を用いて計測を行った。使用したwireは、それぞれ0.016"径のStainless steel(American Orthodontic社製)、Elgiloy-green(Rocky mountain orthodontics社製)、Nickel titanium (SPEED SYSTEM社製)、Sentalloy-light(TOMY INTERNATIONAL社製)、Stainless steel coaxial(SPEED SYSTEM社製、stainless steel 7本巻)、およびSupercable(SPEED SYSTEM社製、nickel titanium 7本巻)の6種類である。 Instron Universal machineのload cellは2000 gのものを用い、loadingの限界点は1800 gに設定した。記録はchart speedは毎分10 mmあるいは20 mm、full scale loadは200 g〜2000 gにてX-Y recorderにより自動記録を行った。さらに、digital表示の読み取りをloading時およびunloading時の 1.0 mm、2.0 mm、3.0 mm時点と最終loading時、永久変形の量について行った。変位は0.0 mm〜3.0 mmのloadingを行った後、30秒間保持した後に引き続き3.0 mm〜0.0 mmのunloadingを行った。 すべての計測は室温(19.5°〜21.0°)で行い、Sentalloyについては恒温槽内(36.5°〜37.5°)にて計測を行った。各々10本のwireについて計測を行い平均を求めた。 Data間における有意差の検定は、計測によって永久変形を起こさなかったNickel titanium 、Sentalloy、Supercableの3種類についてANOVAにより行った。

2) 結果(表1〜3、
図5) 計測および検定の結果を表1〜3、各wireの代表的なloadingおよびunloadingの波形を図5に示す。 Stainless steelは1mmを超えた変位で1800 gの荷重により、scale overした。Elgiloy は2mmで永久変形を起こした。NiTiは約170 g、Sentalloy-light は約120 gの力をunloding時に示した。Stainless steel coaxialはわずか約90 gの弱い力を発現したが1mmの永久変形が残った。Supercableは約65 gの持続的な一定の力が変位の解放を通じて働いていた(表1、図5)。 Three point suspension test によって発現した力を、Supercable、Sentalloy、NiTi 相互間で有意差の検定を行なった結果、SupercableはSentalloyおよびNiTiに比較して、 SentalloyはNiTiに比較して、全ての場合において0.1% levelで有意に弱い力を発現した(表2)。 また、Supercableは0.022" slotのSPEED bracket との併用によりunloading 時において2mm引き下げ時の66.5 gより、1mm引き下げ時の72.1 gの方が強い力を発現した。(表1)。両者間での有意の差がなかった(表3)。

3) 考察 今回の計測結果をみてわかったことは、矯正治療において弱い力を求めながらも、実際の臨床においては大きな矯正力がかかっていたことが想定されたことである。0.016"径の矯正線は初期の排列の際に最も頻繁に使用されているarch wireであろう。この0.016"径のarch wireを10 mm長の中央でわずか1 mm変位させた場合にStainless steelでは約1500 gもの力が生じていたことである。さらに、NiTiでさえ1 mm変位で約170 gもの力が加わっていたことである。今回の10 mm長の中央という設定は中程度以上の叢生を有する症例において頻繁に遭遇する状況である。Stainless steel coaxialは比較的弱い力を発現したが3 mm変位させると0.86 mmの永久変形が残った。またarch wire表面にあるねじれが摩擦を生じさせているのが代表的な波形の図
(図5)でわかる。Supercableも同様の表面構造を有しているが、超弾性wireの持つspring backによって随時補正が行われていると推測され、永久変形も起こさない。Supercableは従来のnickel titanium wire と比較して1/2以下の有意に微弱であるminute forceを持続的に発現し、力の変化が非常に少ない究極的な超弾性の性状を示し、特に0.022" slotのSPEED bracket との併用によりunloading 時において2mm引き下げ時の66.5 gより、1mm引き下げ時の72.1 gの方が強い力を発現した。SupercableとNiTiとの比較を図6に示すが、超弾性のwireにおいては見かけ上の変形と回復によって、このようなhysteresis curveを描くことがよく知られているとおり、この両者の軌跡は非常に良く似通っている。NiTiにおいても、unloading 時において2mm引き下げ時の175.8 gが1mm引き下げ時の170.5 gと逆転は起こさなかったものの、非常に近似していて、両者間で有意の差がなかった(表3)。このように平均値では現れなかったが、実際NiTiにおける10本のwire計測において1 mmと2 mm引き下げ時で逆転を起こしたものが2例ほどあった。この転位量が小さい方が転位量が大きい方よりも強い矯正力が生じるという逆転現象は、通常の蓄積される弾力とその解放という常識では理解しがたいものであろう。近い方が強い力が生じるmechanicsは磁力以外に想像はできない。このような転位歯とarch wireの関係にして然り、coilにして然りである。いわゆる「バネ」の構造は蓄積される弾力が解放されるに従い力は減ずるのである。しかしながら、SPEED bracketとSupercableとの組み合わせでは恒常的に生じる性質である。これは推測するにSPEED bracketに組み込まれているspring clipの働きによるものであろうことは確実である。いずれにしてもSPEED bracketとSupercableとの組み合わせは究極的に微弱な力(minute force)を持続的に発現することによって生理的な歯の移動を効率的に起こすことは間違いない。

4) 結論
(1) Supercableは実験材料中最も弱い力を発現し、永久変形を起こさなかった。
(2) SupercableはSentalloyおよびNiTiに比較して、全ての場合に於いて0.1% levelで有意に弱い力を発現し、その力は1/2以下であった。
(3) Supercableは、引き下げ距離による力の変化が非常に少ない究極的な超弾性の性状を示し、特に0.022" slotのSPEED bracket との併用によりunloading 時において60〜70 gの力を持続的に発現した。

 


 

 

2. Strain gauge応用の歯列弓模型による検討
 SupercableとSPEED bracketの組み合わせにより歯列内に生じる力について、上顎右側側切歯の1〜3mm の舌側転位を想定して、strain gauge応用の歯列弓模型にて計測比較した結果、SupercableとSPEED bracketの組み合わせはNiTiとの組み合わせに比較して18.5%〜29.8%の弱い力を示し、歯列内の固定源となる歯にもリアクションが少ないことが明らかになった。

1) 資料および方法 
Supercableから個々の歯に発現される矯正力について検討するため、野間の方法19)
(図7)に準じ4 mm角の真鍮棒により上顎歯列弓を模倣した実験モデルを用いて上顎右側側切歯(R2)の3 mmまでの舌側転位を想定し、strain gaugeを用いて各々の歯に生じる矯正力の強さと方向を計測した。 計測には野間の0.018" slotのEdgewise bracketでのdataとの比較のため0.018" slotの SPEED bracketを使用した。計測に用いたwireの種類は、0.016"径のSupercable(SPEED SYSTEM社製、nickel titanium 7本巻)、 Stainless steel Twist wire(Rocky Mountain社製、stainless steel 5本巻)、 NiTi(Ormco社製)、 Nitinol(3M Unitek社製)の4種類のarch wireを用いて計測を行なった。各々5本のwireについて計測を行い平均を求めた。 測定は共和電業社製静歪測定器とscannerを用い記録した。Data間における有意差の検定はt-testにより比較検討を行った。

2) 結果(表4〜7、
図8) 
計測された唇(頬)舌方向の力の平均値および検定の結果を表4〜7に示す。 NiTiおよびSupercableでの各々の歯に生じる矯正力の強さと方向をベクトル表示したものを図8に示す。 SupercableとSPEED bracketの組み合わせにより1 mm、2 mm、3 mm、の舌側転位を想定した際にR2にかかる唇舌方向の力は、それぞれ53.5 g、87.4 g、117.7 gであり、他のwireに比べ全ての条件で有意(p<0.01)に弱い力を発現した(表4)。また、その力の差は舌側転位量が大きい程顕著であった。 転位歯R2の隣在歯にR1およびR3に反作用として生じた舌側方向の力においても、Supercableは他のwireに比べて有意に弱い力を発現し、その力の差は舌側転位量が大きい程顕著であった(表5、6)。 Edgewise bracketとSPEED bracketとの比較では、舌側転位を想定した際にR2にかかる唇舌方向の力は、SPEED bracketに組み込まれたspring clipでwireを固定した場合の方が、Edgewise bracketに結紮線を使用した場合より弱い力を生じる傾向が認められた。しかしながら、NiTiおよび Nitinolの 1mmの舌側転位において SPEED bracketを使用した方が有意に強い力を示した(表7)。

3) 考察 
Strain gaugeでの検討で側切歯(R2)の1mm 舌側転位の際のdataでのみNiTi系のround wireを使用した場合にSPEED bracketとの併用の方がEdgewise bracketとの併用よりも有意に大きい値を示したことは興味深い(表7)。これは、SPEED bracketの組み込みのspring clipの弾力と、nickel titanium wireにおけるspring backとの相互作用による蓄積energy
(図9)の結果で、SPEED bracketの大きな特徴が証明された結果である。 SPEED ApplianceでのSPEEDはそれぞれS: Self ligating、P: Precision、E: Edgewise、E: Energy、D: Deliveryの意味を表現している。Self ligation機構を組み込んだ精密なEdgewise装置であり、energyの配達機能を有しているという意味合いである。SPEED bracketの特徴は組み込みのspring clipであり、様々な利点をも生み出している。SPEED Applianceでは不正な位置にある歯のSPEED bracketにarch wireが装着されるとwireから受ける力によりspring clipがたわみを起こす。この状態からwireとbracketとの関係をhome position(図10a、b)という適正位置にcontrolすることにより不正の改善が行われるのである。Arch wireの弾力にspring clipの弾力が加味され、双方に蓄積されたenergyが徐々に解放されることで、常にwire – bracket間の位置関係を姿勢制御することにより歯の移動をするのである。上記の1mm 舌側転位の計測値においてNiTi系のround wireを使用し場合にSPEED bracketとの併用の方がEdgewise bracketとの併用よりも有意に大きい値を示したことについては、NiTi系のround wireはwireのspring backが大きいため、1mm 舌側転位の状況においてSPEED bracketに組み込みのspring clipのたわみによる付加力が顕著に現れた結果である。
 このことは
図8で示したR2の舌側転位量によって各々の歯に生じる矯正力の強さと方向をベクトル表示したEdgewise Applianceとの比較でより一層明確になる。一見混同する結果であるが事実を明確に示している。
 
図8aはSupercableをarch wireとして使用した場合の結果であるが、Edgewise Applianceで用いた場合に、2、3 mmで有意に大きいのは結紮線とwireのねじれ目の影響であると考えられる。この実験では計測時の結紮方法としてR2(右側側切歯)を除いて、L1(左側中切歯)から始め、R1(右側中切歯)、L2(左側側切歯)・・・と正中を挟んで左右順番に遠心へと結紮していき、最後にR2(右側側切歯)を結紮したことが少なからず影響を与えていると思われる。各部位でwireがbracketに結紮線により締め付けられる際にwireのねじれ目がlockされているため、3 mmと転位の強いR2を最後に結紮したときに各部位にtensionがかかったものと考えられる。これについてはbracketとwire間の摩擦についての問題として後述する。これに対してSPEED Applianceで用いた場合には,SPEED bracketは動摩擦が非常に少ない(7、20)ので、Edgewise bracketに結紮線を用いるような影響は起こさない。このため、1 mmで隣在歯(R1、R3)のリアクションがEdgewise Applianceで用いた場合より有意に大きいのは上述のarch wireの弾力とSPEED bracketに組み込まれたspring clipとの協調のせいである。
 さらにこのことは、
図8bの NiTiをarch wireとして使用した場合の結果より明確になる。1 mmの転位量でSPEED ApplianceとNiTiの組み合わせを用いた場合に、上記のR2での結果のみでなくリアクションとして生じる力が両隣在歯付近の歯までEdgewise Applianceとの組み合わせで用いた場合より有意に大きいのは、同様にspring clipの付加力が顕著に現れた結果である。これに対してEdgewise ApplianceとNiTiの組み合わせでは、Supercableのような結紮のlockが生じないので、単純に2、3 mmでR2が優位に大きい力を生じている。これに対して、SPEED Applianceとの組み合わせでのR2の2、3 mmの転位量ではspring clipが緩衝することによりEdgewise Applianceとの組み合わせよりも弱い力になるのである。それでは、NiTi使用時の2、3 mmの転位量で,両隣在歯付近の歯のリアクションがSPEED Applianceでの方が有意に強いのはなぜであろうか?これこそリアクションとしてたわんだarch wireからの力が、1 mm転位量と同等の力になるので、これもまたspring clipのたわみによる付加力が顕著に現れた結果である。
 総合的に考えてみるとやはり三点曲げ試験の結果と同様に、実際の臨床においては大きな矯正力がかかっていたことが想定されたことである。このsimulationによるとSPEED ApplianceとSupercableの組み合わせを用いれば、3 mmの転位に対しても100 gを幾分超えた力以内の力で初期の排列を行うことができるということであった。この結果は0.018" slotでの結果であるので、著者が用いている0.020" slotとの組み合わせの場合は更に弱い力であることは確実である。さて、このような弱い力では排列の進行が遅いもしくは進行しないなどが起きるであろうか?そのようなことは決してないのである。この組み合わせによる臨床効果については、症例を挙げて後述する。

4) 結論
(1) SupercableはSPEED bracketとの併用でR2の舌側転位に発現する力は他の3種類のwireに比べ全ての条件で有意(p<0.01)に弱い力を発現した。
(2) SupercableはSPEED bracketとの併用で、R2の1 mmから3 mmの舌側転位に対して約50gから120gの微弱な力を発現し、より生理的な歯の移動が可能であると考えられた。
(3)これをNiTiと比べると、18.5%〜29.8%の力であった。
(4) Bracket間の比較では、R2の舌側転位に発現する力は、SPEED bracketの方が、Edgewise bracketを使用した場合より弱い力を生じる傾向が認められた。しかしながら、NiTiおよび Nitinolの 1mmの舌側転位において SPEED bracketを使用した方が有意に強い力を示した。
(5) これにより、SPEED bracketに組み込まれているspring clipの協調性が証明された。
(6) 転位歯R2の隣在歯にR1およびR3に反作用として生じた舌側方向の力においても、Supercableは他のwireに比べて有意に弱い力を発現していた。
(7) SupercableはSPEED bracketと組み合わせることによってその特性が十分に生かされ、特に転位量が大きい場合、持続的なminute forceによりさらに効果的な歯の移動が可能であり、歯列内の固定源となる歯にもリアクションが少ないことが示唆された。

 


 

 

<Bracketとwire間の摩擦について> 
前述のように、SupercableはSPEED bracketとの組み合わせで用いるためにSPEED Applianceの開発者である Hansonにより1993年に開発されたarch wireである。このため、self ligation systemとの組み合わせにおいてその特性が十分に発揮される。この場合、Supercableが発現する微弱な矯正力による排列の進行に際し、口唇圧のsupportにより各々の歯はflare outしないで抜歯空隙に向かって排列されていく。非抜歯でもarch formの拡大が前歯群の前方へのflare outが抑制されながら行われる。これはself ligation bracketとの組み合わせというよりもfriction freeのsystemと言い換えた方が適切である。周知の通りself ligation bracketのほとんどがいわゆるnon-active機構である。つまり、結紮の代わりにbracket slotの解放面に蓋をする機構だが、蓋をすればいわゆるtubeにwireが挿入されている状態と同一になって、いわゆるbracketに結紮されている状態とは違うのである。Self ligation system以外ではarch wireはbracketに対して結紮による拘束を受ける。この拘束が摩擦を生じる。もちろん結紮線による結紮やelastomeric ringによる結紮、これも○結紮と∞結紮によって違うが、いずれにしても摩擦という問題が介在してくるのである。使用するbracket slotとarch wireの双方のsizeの条件によっても違うが、self ligation bracketではarch wireのsizeが細くなればなるほど摩擦が減じ、というよりもほとんどなくなってwireの滑り摩擦による抵抗がなくなるのである。SPEED Applianceはself ligation bracketとしては珍しくactive機構であり、弾力性のあるspring clipでwireを保持するが、1990年にBerger(20)はSPEED bracketにおけるspring clipでのwireの保持が、Edgewise bracketにおける結紮線による結紮やelastomeric ringによる結紮での保持に比べて、受ける摩擦が非常に少ないことを証明している。 繰り返しになるが、Supercableはself ligation bracketとの組み合わせ、言い換えればfriction freeのsystemにおいてその特性が十分に発揮される。しかしながらこの特性も、Edgewise bracketと組み合わせて使用すると、結紮によりwireのねじれ目がlockされるため、排列に際して歯のflare outを引き起こしてしまうので注意が必要である。 
図11は1997年に著者のグループが上述の三点曲げ試験と同一で、bracket間距離10mmで中央に力を加え、3mmまでの変位をさせるthree point suspension testを日本大学歯学部において行った結果(21)からの引用であるが、0.016" Supercableを 0.022" slotの SPEED bracketのspring clipでの装着と0.022"×0.028" slotのEdgewise bracket でのelastomericによる○結紮をした場合とを比較したものである。図のように、SupercableをEdgewise bracketと組み合わせて使用すると、3 mmの変位量では結紮によりwireのねじれ目がlockされるため、unloadingできなかった結果である。このように、Edgewise bracketに対して0.016" Supercableを結紮して使用する場合、転位量が大きかったり、stainless steelの結紮線で強固に結紮したりすると結紮によりwireのねじれ目がlockされるため、排列に際して歯のflare outを引き起こしてしまったり、他の部位に好ましくない影響を生じるおそれがある。また、重篤な前歯部の叢生に対してのEdgewise bracketでの結紮による使用は、0.016" Supercableの発現する力が究極的に微弱なために、口唇圧に阻まれてflare outも引き起こさない結果、排列が進行しない場合もある(図25d,e)。あくまでもSupercableはfriction freeのsystemで使用することによってその特徴が遺憾なく発揮されるのである。

 


 

 

<臨床効果の検証> 
 SupercableはSPEED Applianceとの組み合わせによって混合歯列後期では6〜10週間、永久歯列や成人の症例においても3カ月程度で初期排列の目的を達成できる。上述の計測結果により、この際の矯正力は0.020" slot SPEED ApplianceとSupercableの組み合わせを用いれば、3 mmの転位に対しても100 g以内の力で初期の排列が進行しているということが想像される。
 抜歯症例の初期排列にSupercableとSPEED Applianceとの組み合わせを用いた場合、発現する微弱な矯正力は口唇圧のsupportにより前歯群のflare outを起こさずに、側方歯群は抜歯空隙に向かってmigrationを起こし自動的に排列される。このため、中程度の叢生においては犬歯の遠心移動などによって予め排列空隙の確保を行う必要がない。また、重度の叢生においては、SupercableをSPEED bracketに組み込まれているauxiliary tubeにdouble wireとして併用することにより、排列空隙を確保しながら転位歯の排列を同時に行うことができる。Double wireによる転位歯の同時牽引法の症例については後述する。 症例1
(図12a、b) 成人抜歯症例。Initial archとして0.016" Supercableを装着した。8週後には0.016" NiTiが装着可能なまでに排列が進行した。前歯のflare outは起こさなかった。犬歯の排列を促進する目的で、犬歯と第二大臼歯間で2 ounce(約60 g)の顎内ゴムを使用した。
  この手法は成人患者で治療時間の短縮のために著者はしばしば用いるが、顎内ゴムを使用しなくとも進行が2週間程度長くかかるだけで同様の効果が得られる。幼弱永久歯列では使用しなくとも著明な効果が得られるので、初期排列時に顎内ゴムを使用して犬歯の遠心移動を促進しなくとも抜歯空隙に向かって自動的に排列される。
 一般的に初期排列において、細い径のNiTiなどを使用している際に、顎内ゴムやelastomeric chain等を用いて犬歯の遠心移動を同時に行うと、固定源となっている大臼歯のlossや小臼歯の近心傾斜や犬歯の遠心傾斜等様々な好ましくないリアクションが生じるのでこれまでの常識では禁忌の手法である。これは、強い牽引力に弱い力のarch wireの維持力が負けてしまう結果起こる変化である。故に、牽引力を弱くしてarch wireが硬ければこのような好ましくない変化は起こさないのである。しかしながら、arch wireの径がある程度太くて硬いものになるまで待てば時間が経過してしまうし、太い径のarch wireで牽引力を弱くすると摩擦の問題が生じる。これに対して、SPEED bracketは組み込みのspring clipの弾力で常にwire – bracket間の位置関係を姿勢制御していて、さらにfriction freeのsystemであるため、0.016" Supercableのような弱い力を発揮するarch wire使用下での初期排列時に弱い力の顎内ゴムを使用して犬歯の遠心移動を促進することができるのである。ただし、顎内ゴムを使用する際は決して強い力をかけてはいけない。あくまでも促進する意味合いで弱い牽引力を使用する。著者は前述のように2 ounce(約60 g)の力を使用している。大臼歯のloss等の不安に関してのSPEED bracketにおける大臼歯のcontrolについては後述する。 症例2
(図13a、b) 成人抜歯症例。Initial archとして0.016" Supercableを装着した。11週後には0.016" NiTiが装着可能なまでに排列が進行した。
 この症例は上顎第二小臼歯の抜歯により治療を行った。0.016" Supercable使用下で顎内ゴムによる側方歯群の排列促進は全く行っていない。このように、第二小臼歯の抜歯による排列の際も側方歯群は抜歯空隙に向かってmigrationを起こし自動的に排列される。しかも、前歯群のflare outは起こさないのである。 症例3
(図14a、b) 成人非抜歯症例。Initial archとして0.016" Supercableを装着した。右側第一大臼歯の近心捻転が強かったので4週間経過後に0.020" Supercableに交換した。治療開始から9週後には0.018" NiTiが装着可能なまでに排列が進行した。このように徐々にarch formの拡大を行いながら排列されていくのである。捻転の改善においては、前述のSPEED bracketにおける歯の姿勢制御の機構が、Supercableの様な弱い力のarch wireとも協調して素晴らしい効果をみせてくれるのである。 症例4(図15a、b) 成人非抜歯症例。Initial archとして0.018" Supercableを装着した。11週後には0.018" NiTiが装着可能なまでに排列が進行した。
 この症例では排列当初から0.018" Supercableを使用して進行した。Supercableの使用にあたってのwire sizeの選択は、基本的には入るものを使用するという選択基準で良い。著者は最近ではなるべく0.018" Supercableを使用するようにしているが、0.016" Supercableは叢生が重篤でそれしか入らないような場合に使用している。著者は0.022" slotのSPEED Applianceを使用しているが、0.020" Supercableを使用することは稀である。その理由は、症例3のような大臼歯捻転があるような症例は特別で、通常は0.020" Supercableの使用を選択しようとするような症例では、0.016"もしくは0.018" NiTiが入ってしまうからである。
<Supercableを用いる際の手技と注意点>
 SPEED ApplianceにSupercableを装着する際に行われる歯列末端のtube遠心よりarch wireを挿入するsnake inと呼ばれている方法、bracketが近接する際のarch wireの挿入方法およびdouble wireとして使用する際のauxiliary tubeへの挿入方法などの手技について紹介する。

1. Supercableの装着方法 Supercableはnickel titanium 製の7本巻coaxial wireであり、その切断は鋭利なpin and ligature cutterなどで行った方が良い。鈍磨したend cutterなどで切断すると切断端がほつれてしまう。多少のほつれは巻き戻すことによって回復するが、中心1本、外周6本の7本がそれぞれに形状を記憶しているが、その1本1本は非常に細く繊細なので、切断時に過度な力が加わると変形が残って巻き戻らない場合がある
(図16)。
 Nickel titanium 製のarch wireを使用する際に、末端を火焔で焼き鈍しておいてcinch backする場合があるが、これには様々な理由があるが、その一つとして、患者の生活上の口腔機能によってarch wireが左右にずれてend tubeより抜け出してしまうことを防止する意味で非常に重要である。しかしながらSupercableはこのようなcinch backの手法が使えない。細いnickel titanium 製wireの集合であるので、焼き鈍して屈曲ができない。このため、専用のstopを末端に留めてこの代わりとするのである。このstopをすることによってend tubeよりの抜け出し
(図17)を防止するばかりでなく、wireのほつれを防止できるので一石二鳥である。専用のstopの代わりにresin玉を作って代用することもできる(図18)。
 装着に際し、大体の長さを計測して余剰を切断するが、少し長めに切断した方が無難である。それは上記の様に切り損なった場合の変形などの際に再切断の余地を残しておくためと、末端に装着するstopをつけるための必要長を確保しておく必要があるからである。また、arch wireの中心の左右のずれや、左右の長さの非対称性は極端にならない限りあまり気にする必要はない。Supercableが発現する力は非常に弱いので、歯列弓形態が歪んだりしてしまうことはない。通常抜歯症例ではstopはなるべくtube遠心に近接させて装着する。それは、抜歯症例では排列が進行してくるとarch wireの長さに余剰が生じ、tube遠心にwireが突き出してくるからである。しかしながら、Supercableは非常に弾力性が弱いため相当量突き出しても口腔粘膜を傷つけることがなく、患者も余り気にならないようである。一方、非抜歯症例では余裕を持たせて装着する。その理由は、排列と歯列弓の拡大のために余剰が必要であるからである。

1) 上顎での装着方法
(図19a〜f)
(1) やや余裕を持って切断したSupercableの既成archの中央を歯列中央と大体合わせ、左右の犬歯までの前歯群に装着する(図19a)。
(2) 片側のterminal tubeまたはbracketまでの必要距離を計測する
(図19b)。
(3) 口腔外に断端を引き出し、stopを装着する余地を残して余剰を切断する
(図19c)。
(4) Stopを装着する
(図19d)。
(5) Supercableをbracket slotに戻して小臼歯以後のspring clipを閉じる
(図19e)。
(6) 反対側も同様に行う
(図19f)。
2) 下顎での装着方法(snake in)
(図20a〜g)
(1) Supercableの一端にstopを装着し、他端は余剰を残して少し長めに切断し、mosquito forceps等で把持して片側のend tube遠心より挿入する(図20a)。
(2) Supercableを引いて反対側のend tubeに挿入する
(図20b)。
(3) 長さ確定のためspring clipをすべて閉じる
(図20c)。
(4) Stopを装着する余地を残して他端の余剰を切断するために長さを確認する
(図20d)。
(5) Spring clipを全て開け、Supercableの前歯部を持ち上げながらstopを装着する側の末端をtube後方に引き出していく
(図20e)。
(6) 末端付近をmosquito forceps等で把持しさらに引き出して口腔外に断端を引き出しstopを装着する
(図20f)。
(7) Supercableをbracket slotに戻して全てのspring clipを閉じる
(図20g)。


<重度の叢生を有する際のSupercableの挿入方法>
 近接したbracketにSupercableを装着する際には、その柔軟性を最大限に応用し、捻転など、不正状態の重篤な部位のSPEED bracketのslotにarch wireを最初に挿入しclipすることができる。

1. 重篤な舌側転位を有する上顎側切歯への装着(図21a〜d)
1) 最初に舌側転位の重篤な右側側切歯のbracketのslotに0.016" Supercableを挿入しclipする(図21a)。
2) Spring clipが完全に閉鎖し、arch wireがmain slot内に収納されていることを確認してから、弱い力でwireを隣接歯のbracketのslotに誘導しclipする(図21b)。
3) 反対側の左側側切歯の舌側転位は不正状態が中程度なため、近心位の歯より順にclipできる(図21c)。
4) 写真のように側切歯bracketと中切歯遠心歯面が近接するなどの場合には、dental flossなどを用いてbracketのslot内にwireをしっかり挿入しないと、spring clipがwireを噛んで正しく閉じないことがある(図21d)。

2. 近接している下顎中切歯への装着
(図22a〜d)
1) 下顎中切歯間が近接しているため、捻転の状態がより重篤な左側中切歯部のbracketのslotに0.016" Supercableを挿入しclipする(図22a)。
2) Spring clipが完全に閉鎖し、arch wireがmain slot内に収納されていることを確認してから、弱い力でwireを右側中切歯のbracketのslotに誘導する
(図22b)。
3) 右側中切歯部のbracketのslotに0.016" Supercableを挿入する
(図22c)。
4) Arch wireをmain slot内に収納されるようにwireを保持してclipする
(図22d)。

<Double wire14、15)の装着方法>
 SPEED bracketにはmain slotの他に0.016"×0.016" horizontal auxiliary slotが組み込まれておりauxiliary tubeとして利用できる。このため、double wireによる同時牽引法が簡単に活用できる。これは、矯正臨床で遭遇する頻度の高い舌側転位した側切歯の改善に特に有効である。
 
図23は舌側転位していた上顎右側側切歯をdouble wireによる同時牽引法により治療した症例である。5週後の経過(図23b)で、排列spaceが確保されながら側切歯が徐々に唇側に移動されてきているのが認められる。10週後には(図23c)main archに使用した0.017"×0.022" nickel titanium SPEED wireが側切歯のmain slotにclipできるまでに改善された。
 Double wireを使用する際は最初にsectional archをauxiliary tubeに挿入する。この際spring clipは開けておく方がauxiliary tubeが見やすくwireを挿入し易い。Sectional archとして用いるwireは0.016" Supercableが最適であるが、0.012" もしくは0.014" nickel titanium round wireも使用できる。しかし、0.016" nickel titanium round wireは牽引力が強くなりすぎるため、リアクションも大きくなるので使用しない方がよい。 Sectional archを挿入する個所は該当歯の両隣接歯2歯づつが適当であるが、側切歯の舌側転位の症例では、しばしば隣接した犬歯から左右中切歯までの該当歯を含めた4歯に挿入する方法を採っている。 Sectional archが挿入できたら、Supercableを使用する場合にはwireのほつれの防止と抜け出し防止のため、断端にresinで玉状のstopを付ける。 Supercable専用のSupercable stopを用いて止めても良い。挿入前にwireの一端にはstopを装着しておいた方が楽である。Nickel titanium round wireを使用する場合には、予め適正な長さに切断して両端を火焔等で焼き鈍し、一端はbend inしておき挿入後にもう一端をbend inする。Sectional archの装着ができたら、0.017"×0.022" nickel titanium SPEED wireを上顎右側側切歯以外のmain slotにclipする。0.017"×0.025" nickel titanium rectangular wireで代用しても良い。最終段階では舌側転位していた歯のtorque controlのために必ずfull sizeである0.020"×0.025" stainless steel SPEED wireを装着する。

<その他の臨床応用>
1. Supercableによる大臼歯のcontrol
(図24 a〜d)
 図24は上顎左右側第一大臼歯の近心捻転のために頬面観での大臼歯関係がend onのII級関係を呈していた(図24a)症例である。初期の排列のためにinitial archとして0.016" Supercableを装着した(図24c)。この弱い力でも左右側第一大臼歯の近心捻転の是正が起き1カ月後には0.016" NiTiが装着でき、2カ月2週後に0.016" stainless steelが装着された時には第一大臼歯の近心捻転がほぼ改善された(図24d)。その後も良好なcontrolが持続され、15カ月後に装置を撤去した際には大臼歯関係がsuper Class Iに改善された(図24b)。
 前述したSupercableとSPEED Applianceとの組み合わせによる臨床効果で示した症例3での右側第一大臼歯の近心捻転の改善
(図14)もSupercableによる大臼歯のcontrolが良好に進行する一例である。
 SPEED Applianceにおける固定のことについては非常に頻繁に質問を受ける。上顎大臼歯にもSPEED bracketを使用する訳だがband用のものはないのか?大臼歯の近心移動防止のためにNance’s holding archなどの使用はしないのか?その際bandは使えるのか?Head gearは?等々である。その回答は、SPEED bracketに組み込まれているspring clipによっていつも姿勢制御され、wireとbracketがhome position
(図10)という関係を維持するので、抜歯症例での特別な加強固定の手段を講じなくとも大臼歯のlossは最低限に抑えられるということである。また、前述のようにSPEED bracketはlow frictionの構造を有しているので抜歯空隙の閉鎖時のsliding mechanicsの際の牽引力も弱い力で十分であるという事実もまた大臼歯のlossが起きにくい理由である。抜歯空隙の閉鎖による前歯部の後方牽引の際にその固定源となる大臼歯は、まず、近心に引かれ近心捻転が最初に起こる。強い力によってこのような変化が起こると、初期の変化は回復されないで連続した変化は近心移動という形で現れてくるのである。SPEED bracketにはこの初期の近心捻転という変化を常に是正する機構が備わっているために固定大臼歯のlossが起きにくいのである。上記の症例は上顎大臼歯に対してのspring clipのactionを説明するのに適当な症例である。

1. Supercableによる水平埋伏した下顎第二大臼歯の整直
(図25 a〜e)
 図25は下顎において左右側の第三大臼歯のみならず第二大臼歯までもが埋伏をしていたため、第三大臼歯の抜歯後に第二大臼歯の整直を行っている症例である。術前の状態は左右側共に完全埋伏しており、傾斜は左側第二大臼歯の方が重篤であった(図25a)。
 前準備として下顎に0.018"×0.025"slotのStandard Edgewise Applianceを装着し、左右側第二小臼歯間に固定源としてlingual archを装着した
(図25d)。第三大臼歯の抜歯を矯正処置開始前に行った際の歯肉切除の効果により、左側第二大臼歯遠心面の一部が口腔内に露出している。
 最初に右側から開窓し、その約1カ月後に左側を開窓し、開窓の際に埋伏歯の頬側歯面にtubeを装着し、0.016" Supercableを第二大臼歯から犬歯までsectional archとして装着した。 左側開窓処置後1カ月のパノラマX線写真
(図25 b)で確認したところ、右側第二大臼歯(移動開始2カ月後)は術前と比較して明らかに傾斜角度の減少が認められ、左側第二大臼歯(移動開始1カ月後)では隣接する左側第一大臼歯遠心との接触が緩くなっている像が確認できた。
 さらにその2カ月後のパノラマX線写真
(図25c)では、右側第二大臼歯(移動開始4カ月後)は僅かな傾斜を残すのみで、左側第二大臼歯(移動開始3カ月後)も大幅に改善されていた。そのときの口腔内写真(図25e)では、左右側第二大臼歯共に咬合面が観察でき、とくに右側第二大臼歯の咬合面は下顎咬合平面の方向とほぼ一致するまで改善されたことがわかる。
 このようにSupercableは究極的に微弱なminute forceを持続的に発現し、生理的な歯の移動を効率的に起こすのである。

3. Supercableの直接貼り付け法による叢生の術後再発の是正16、17)
(図26 a〜d) 図26は22歳頃に矯正治療の既往がある成人女性で、術後5 年を経過していた。来院時には保定的手段はなんら講じてなかった。下顎右側中切歯の近心捻転の再発の再治療を希望したが症状が軽度であったため、Supercableの舌側直接貼り付け法による改善を行った。 0.018" Supercableを下顎右側第一小臼歯近心小窩から順次前歯群の舌側面にlingual retainer接着用光重合レジンにて直接張り付けた。 6週後に改善が進行した時点で、捻転が強かった下顎右側中切歯近心にwireの余剰距離による空隙が生じてきたがこのまま観察した。 約2ヵ月後下顎右側中切歯の近心捻転がほぼ改善したので、0.0195" stainless steel coaxial wireをbonded lingual retainerとして貼り替え、保定に移行した。貼り替えの際、下顎右側中切歯近心の空隙は個々の歯を舌側方向に手指で圧接することにより、移動中の歯の動揺範囲で閉鎖できた。この貼り替えによって個々の歯に新たな矯正力が生じてさらなる改善が起こり、wireの活性がなくなった時点で固定式の保定装置となる。

<まとめ>
 SPEED Applianceは1976年にHansonによって開発され、1980年にアメリカ矯正歯科学会雑誌に発表されてからもはや優に20年が経過している。その間にbracket本体や、この装置を活かすarce wireなどの開発が進んできた。
 SPEED bracket本体は、21世紀になってから組み込みのspring clipがnickel titanium製になったことで4倍もflexibleになり変形が少なくなった。さらに、labial windowが設けられて開閉などの操作性も向上し、self ligating systemとしてさらなるchair timeの軽減に寄与している。
 Arch wireの開発もHansonの独創的なideaによってSPEED Applianceでの使用を目的として絶え間ない開発が進められてきた。Rectangular wireの唇側歯肉側の角が丸められている独特の断面形態を持つSPEED wireはSPEED Applianceと同時開発され、組み込みのspring clipと協調して優れたtorque controlを生み出す。近年開発された断面がalphabetのD形をしているD-wireは、SPEED bracketとの協調でsliding mechanicsなどの滑走させる手法に有利なように摩擦を減少させ、なおかつtorque controlを失わせない考慮を背景に開発された。
 その中でも1993年に開発されたSupercableは超弾性nickel titanium 7本巻coaxial wireであるが、この論文でclose-upしたように非常に優れたarch wireである。とくに初期排列においてSPEED Applianceと組み合わせて使うことによって、3 mmの転位に対しても100 g以内の力で初期の排列が進行しているということが想像され,抜歯症例では発現する微弱な矯正力は口唇圧のsupportにより前歯群のflare outを起こさずに、側方歯群は抜歯空隙に向かってmigrationを起こし自動的に排列される。このため中程度の叢生においては犬歯の遠心移動などによって予め排列空隙の確保を行う必要がない。しかも、この組み合わせによって混合歯列後期では6〜10週間、永久歯列や成人の症例においても3カ月程度で初期排列の目的を達成できる。
 Supercableが発現する究極的に微弱なminute forceは、生理的な歯の移動を持続的にかつ効率的に起こすので、その活用の可能性は無限である。

<文 献>
1) Andreasen, G. F.: An evaluation of 55 cobalt substituted nitinol wire for use in orthodontics, J Am Dent Assoc, 82:1373-1345,1971.
2) Andreasen, G. F.: A use hypothesis for 55 nitinol wire for orthodontics, Angle Orthod, 42:172-177,1972.
3) Andreasen, G. F. and Morrow, R. E.:Laboratory and clinical analyses of nitinol wire, Am J Orthod, 73:142-151,1978.
4) Burstone, C. J., Qin, B. and Morton, J. Y.:Chinese NiTi wire - A new orthodontic alloy, Am J Orthod, 87:445-452,1985.
5) Miura, F., Mogi, M., Ohura, Y. and Hamanaka, H.:The super-elastic property of the Japanese NiTi alloy wire for use in orthodontics, Am J Orthod Dentofac Orthop, 90:1-10,1986.
6) Hanson, G. H.: The SPEED system: A report on the development of a new edgewise appliance, Am J Orthod, 78:243-265,1980.
7) Hanson, G. H.:J.C.O. interviews, Dr. G. Herbert Hanson on the SPEED bracket, J Clin Orthod, 10:183-189,1986.
8)Berger, J. L.: The Speed appliance: A 14-year update on this unique self-ligating orthodontic mechanism,Am J Orthod Dentofac Orthop, 105:217-223,1994.
9)山崎俊恒:SPEED Applianceによる成人矯正治療について、日成人矯歯誌、3:31-56、1996.
10)山崎俊恒:SPEED Applianceの特徴 —装置の利点とbracket positioningおよびarch wireの選択について—、東京矯歯誌、7:144-161、1997.
11)山崎俊恒、田村幸子、中久木正明、納村晉吉:SPEED Applianceによる治療効果について —動的治療期間の短縮—、 日矯歯誌、57(5): 327-339、1998.
12)山崎俊恒、高見澤由紀、大谷 純、有本方恵、納村晉吉: SPEED Applianceにおけるトルクの効果について、東京矯歯誌、8(1):8-15、1998.
13)山崎俊恒、有本方恵: SPEED Applianceによる成人矯正治療について —その2  bite blockの併用—、日成人矯歯誌、5(2):55-72、1998.
14)山崎俊恒、糸井健太郎、本目祥人、中嶋 昭、納村晉吉: SPEED Applianceにおけるdouble wireにより舌側転位した側切歯の改善時に生じる矯正力について:日大歯学、73(2):223-231、1999.
15)山崎俊恒:SPEED Applianceによる成人矯正治療について —その3 double wireによる舌側転位歯の排列とtorque controlについて— 、日成人矯歯誌、7(1):13-24、2000.
16)Woodside D G、黒田敬之、山崎俊恒:矯正治療のグローバルな展望 —トロント発(前)、臨床矯正ジャーナル 11月号:11-24、2002
17)Woodside D G、黒田敬之、山崎俊恒:矯正治療のグローバルな展望 —トロント発(後)、臨床矯正ジャーナル 12月号:11-24、2002
18)山崎俊恒:術後5年経過した成人前歯部開咬症例、日成人矯歯誌、11(1):20-25、2004.
19)野間秀郎:実験モデルによるエッジワイズメカニズムに関する研究—ストレインゲージを用いて測定した側切歯唇側移動時の矯正力の分布について—、日矯歯会誌、47:351-363、1988.
20)Berger, J. L.: The influence of the Speed bracket’s self-ligating design of force levels in tooth movement: A comparative in vitro study,Am J Orthod Dentofac Orthop, 97:219-228,1990.
21)中嶋 昭,今井宏実,深瀬康公,浅野雅子,納村泰弘,中久木正明,本吉 満,山崎俊恒,沼田圭介,西山 實,納村晉吉:ブラケットとアーチワイヤーとの間に生じる頬(唇)舌方向の摩擦力について —SpeedブラケットおよびEdgewiseブラケットについての検討—、日大歯学、71:830-843、1997.

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