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2006年12月04日

self-ligation orthodontic systemにおける最近の話題

<緒言>
近年self-ligation orthodontic systemの話題が再燃している。おそらく,passive self-ligation systemの代表であるDamon systemのminor changeによるDamon3の発表に刺激を受けてのことであろうが,self-ligation orthodontic system全体が話題再燃している。
Self-ligation systemについての特徴や治療手法については,新鮮で新しいことと捉えがちであるが,その基本手法はstraight wire techniqueの流れの中で発展してきていることは確実で,決して新しい考え方ではない。さらに遡ってみても、その基本はTweedのStandard Edgewiseのanchorageの考え方やBeggのlight forceの考え方が脈々と受け継がれ発展してきたであろうことは疑いの余地はない。しかしながら,これらの流れの中で形状記憶合金のarchwireとの組み合わせにより飛躍的な進化を遂げていることもまた事実であろう。その中でも再認識されているself-ligation, low friction, light forceの3点についてclose upして論じてみたい。

<Self-ligation systemの開発>
Self-ligation systemは新しいようであるが1930年代前半に最初の装置が開発され,1970年代以降に開発されたものが現在まで残っている。そして,それぞれが 当初よりchair timeの減少,歯周組織に優しい,感染防護に有利であること,痛みの減少,通院間隔の延長,治療期間の短縮などの利点について主張してきたばかりでな く,約四半世紀の時間をかけて,それぞれのsystemが装置そのものの機構の改善や装置の特徴を活かすarchwireなど,system全体の向上を 図ってきている。
最初のself-ligating orthodontic attachmentは1933年のBoyd band bracketだそうであるが,大きい形態と製作コストのことで開発を断念したといわれている1) 。同年代にFord Lock,1950年代にRussell appliance,Schurter device,Rubin device,1966年にBransonが発表されたが現在は供給されていない。これらすべてのattachmentはarchwireの把持に passiveな機構が採用されていた。
1972年に開発されたSPEED Sysyem(
図1)は それまでの常識を覆しarchwireの把持にspring clipを採用し,activeな機構を持たせた最初のattachmentである。このSPEED Sysyemは現在もなお供給され続けている。
その後,1972年に開発されたEdgelok bracket(passive機構,図2)は1979年に開発されたMobil-lock bracket(passive機構,図3)にその座を譲った。1986年に開発されたActiva bracket(図4)はpassive 機構を持ったlow frictionのbracketとして著名であったが,製造を中止されて現在供給されていない。
1990年に入ってからself-ligation systemの発表が相次いで行われた。
まず,1995年に発表されたTime bracket(図5)はarchwire の把持にspring clipに類似のrotational armを採用しているが,そのspringが堅いためpassive機構と分類されている。しかしながら,改良を加えられて現在も現役である。
1996年に開発されたDamon bracket(図6)は, passive機構のself-ligation systemとして近年注目されているが,開発から三度のmodel chengeを行い,現在供給されているのは,金属製のDamon 2とcomposit resinと金属のcombinationのDamon 3(2004年開発)である。
1998年に開発されたTwin lock bracket(passive機構,図7) は現在供給されていない。これはDamon bracketと同類のslide機構によって,解放されているEdgewise bracket slotに第4番目の壁を作ってarchwireを把持させる機構を採用した。
2000年に開発されたIn-Ovation(図8)は,SPEED Systemと同様にactive機構のspring clipを採用している。
2004年に開発されたSmart Clip(図9)はnitinol 製のclipによってarchwireを把持する機構を採用しているが,passive機構を明言している。
これらの結果,現在もなお供給が続けられているself-ligation systemは,active機構のものではSPEED systemとIn-Ovationの2種類,passive機構のものではMobil-lock bracket,Time bracket,Damon 2およびDamon 3,Smart Clipの4種類の合計6種類である。なおこれらにlingual orthodontic attachmentは入っていないが,lingual self-ligation systemや半透明self-ligation systemについては後述する。


<現在利用できるself-ligation systemの機構と特徴>
1. Active機構のself-ligation system
1) SPEED system
SPEED system1-19)(Strite Industrise Limited社,図1) はactive self-ligation systemの代表であり開発から30余年が経過している。SPEEDはSpring-loaded, Precision, Edgewise, Energy ,Deliveryの頭文字をとっていて,それぞれ,springを組み込んだ,精密,Edgewise装置,energyを発揮すると言う意味が込めら れている。
Self-ligation systemというと特別な装置のように聞こえるが,その実態はpre-adjustedのEdgewise Applianceであり,ただarchwireの保持に関してself-ligationという機構を持っているのである。ただし,このself- ligationという機構がlow frictionでlight forceの治療techniqueを容易にしていることが大きな利点である。このtechniqueの詳細については後述する。
SPEED bracketの構造特徴(図1-a)は その組み込みのspring clipにある。spring clipの開閉は容易でarchwireの着脱に要するchair timeの減少は,患者のcareに割ける時間が増加するので臨床の現場では大きな恵みである。SPEED bracketの利点は種々あるが,そのほとんどが組み込みのspring clipによるものであり,それらは,1.小さなbracketで衛生的,2.Archwireの交換が容易,3.素晴らしいcontrol性, 4.Sliding mechanicsの使用に有利,5.Auxiliary slotが活用できる,6. 治療期間が短縮される,などである。Auxiliary slotは0.016”×0.016”の内径をもっていて,hook の追加装着やdouble wireの挿入に便利である。ただし,SPEED bracketは組み込みのspring clipによるactive actionによりcontrol性に優れるので,auxiliary slotにupright springなどは使用しない。側方歯群のbracketに付けられているmushroom hookは丸みを帯びた形態で刺激が少なく,elasticやelastmeric chainなどの装着に便利である。
開発以来SPEED bracketの特徴を生かすべくさまざまな開発がなされてきたが,開発時にSPEED bracket と同時に開発されたSPEED archwire(図1-e)はrectangular wireの唇側歯肉側の角が丸められている独特の断面形態を持ちspring clipと協調して優れたtorque control性能を発揮する。1993年に開発されたSupercable(図1-d)は, 7本巻きのnickel-titanium(Ni-Ti)coaxial wireで,このwireが持続的に発現する微弱矯正力はself-ligation systemにおけるlow friction,light forceのtechniqueに一石を投じたと言っても過言ではない。組み込みのspring clipにも改良が加えられ,21世紀のSuper-elastic model(図1-a)で は,spring clipの素材がstainless steelからNi-Tiに替えられ,4倍も柔軟度を増した。さらに,開閉をより容易にするためにspring clip中央部にlabial windowという小さい穴を設けた。

2) In-Ovation
In-Ovation(米国GAC社,日本Tomy International社 ,図8) はtwin shapeのbracketにcobalt-chrome製のclipを組み込んだ,SPEED system以外でただ一つのactive self-ligation systemである。
SPEED bracketの構造がsingle typeのbracketであるのに対して,世界で唯一のactiveなspring clipを組み込んだtwin bracketであると主張している。
その構造特徴(図8)と して,(A)従来のbracketと同様の四つのtie wingをもつtwin bracketのデザインはrotationのcontrolに勝れ,auxiliaryの使用も多彩である,(B) Cobalt-chrome製のactive clipはslot全域をカバーしarchwireを優しく適合させる,(C) Horizontal auxiliary slotはsectionalやuprighting springやrotational springの使用に利用できる,(D)丸みを帯びたmini post(hook)は刺激が少なく用途が広い,(E) Slot blockerにより,bracket slotからのarchwireの逸脱を防ぐ,(F) Rhomboid-shaped baseは位置付けを容易にする,
(G) Metal-injection moldingは薄手の形を実現した,(H) Torque-in-baseである,(I) CNC(コンピューター数値制御)により精密性と滑沢性を獲得した,(J) 複雑な輪郭のbaseはより良い解剖学的適合を達成する,
(K) Slot中央のID Markerはより良い位置付けの際の指標である,という11項目をパンフレットに明記している。
なぜIn-Ovationはtwin shapeのbracketの構造を採用しているかという問題について,歯根の近遠心的なcontrolや捻転の改善において,小臼歯や犬歯や上顎の切歯 では3.5 mmの幅径が最適であろうというRaymondo C. Thurowの説を根拠としているとEdgewise Orthodontic誌から引用して説明している。また,Damon 2(図6-b)もtwin shapeのbracketの構造を採用しているものの,そのactual working spanが2.08 mmであるということに関して, single bracketの1.8 mmにより近く,自社twin bracketやIn-Ovationの3.8 mmに比較して暗に歯根の近遠心的なcontrrolや捻転の改善に不利であろうことをほのめかしている。
総合的に,In-Ovationは伝統的なtwin shapeのbracketの構造にactive clipとの組み合わせにより,優れたrotationのcontrolを実現させ,抵抗力の減少と共にfull controlを同時に実現させるといっている。
Horizontal auxiliary slotについては,sectionalやuprightingやrotational springの使用に利用できるとし,SPEED bracketと同様の特徴を持たせるべく組み込まれたことが想像に難くない。しかしながら,この構造を持たせるためにbracketの厚みが増加すると いう望ましくない問題が生じているため,horizontal auxiliary slotが組み込まれていない薄型のtypeも販売している。
現在では,In-OvationはGAC社の “R”Systemsシリーズへの組み込みによってIN-Ovation-R(図8-b)) として,より丸みを帯びた形態になりbracketの厚みも減少させた。これによって,患者がきわめて快適になったのは勿論のこと歯周組織に優しいという ことについては,組み込みのspring clipの呼称を“Interactive Clip”とし従来からの結紮によるさまざまな歯周組織への為害性の問題からの解放という利点に加え,spring clipが組織に対してクッションの働きをするといっている。

2. Passive機構のself-ligation system
1) Mobil-lock bracket(図3)精密な開閉機構を実現し,優れた構造を昇華させたMobil-Lock(1979年)はEdgelock(1972年,図2) からその座を受け継いだものの,大きめのデザインがゆえと1970年代に爆発的な普及を遂げたelastomeric ligatureの台頭によって受け入れが限定されたと言われている。1972年に開発の発端をもつこれらのsystemは,passive self-ligation sysytemとして,同年に開発されたactive self-ligation sysytemの代表としてのSPEED Applianceとpassive対activeの双極を担うべく優れた構造を持ち,現在でも継続供給をされているとされながらも,お目にかかる機会が ほとんどないという事は非常に残念である。著者はその情報の検索に手を尽くしたものの,ご紹介にいたる資料を得られなかった。それらの構造について興味の ある方はGraberの第4版1)をご参照いただきたい。

2) Time bracket(図5)Time bracket(American Orthodontics社)はnarrow twin shape bracketにspring clipを付与していて,その外見においてSPEED bracketに酷似している。しかしながら,その開閉機構においてrotational armというActiva bracketと同様な仕組みと評価されている。これは,spring clipがかなり堅くspring clip自体に弾性が乏しく,ほとんど“しなり”を生じないことによるものと思われる。しかしながら,time bracketはspring clipの唇(頬)面中央部に小さな穴が設けてあり,この穴に専用器具を差し込んでspring clipを歯肉側に回転させて開閉をするrotational arm機構である。このため,gentle rolling forceと呼んでいる開閉に必要な力は他のself-ligation systemに比較して非常に小さいと主張している。この開閉時に歯にかかる力を比較すると,Time 2が一番小さくSPEED bracket,In-Ovation R, Damon 3の順に強くなることをグラフで示している。また,このspring clipに設けられた開閉時に使われる小さな穴は非常に有用なため,SPEED bracketの開閉機構にminor changeをさせるべく刺激を与えた。SPEED bracketはspring clipの素材をstainless steel製からnickel-titanium製に変更する際,spring clipの同様部位にやはり開閉時に使用させるためのlabial windowという小さな穴を設けた。
Time bracketも発売以降改良され, Time 2(図5-b)bracket では,このspring clipについて,interactive “smart” clipと表現している。また,bracket本体やspring clipのedgeにやや丸みを帯びさせ,歯周組織への優しさをうたっている。さらに本体構造にtorque railsというものを設け最終stageでのtorque効率を高めている。

3) Damon 2(図6-b)およびDamon 3(図6-c)Damon 2はDamon SL(図6-a)の デザイン基準を維持しrotation やtorqueのcontrol性を改善させた。Bracketの幅を35%小さくしたことで患者の装着感も良好になり,bracket間距離が増大した ことでrotationやtipのcontrolの性能が増した。また,Slideの形状の改善により開閉が容易かつ確実になり,slideの閉鎖によっ て完全なtube形状となるbracket slotはtorqueの control性も増大させた。そして,世界で一番普及しているself-ligation systemであると豪語している。
Damon 3はDamon bracketの第三世代として審美性と信頼性を兼ね備えたpassive self-ligation systemとして発表された。その構造特徴として,①透明な素材とstainless steelの組み合わせにより患者の審美的な要求に応える,②驚くほど簡単なslideのmechanismでwireの交換が容易,③角が丸く非常に滑 らかなので装着感が良い,④四つの硬い壁に囲まれたslotでlow frictionによる早く確実な歯の移動ができる,⑤mechanical bonding baseが強く,信頼のあるbondingを可能にする,という5項目を列挙している。Passive selfl-igating bracketとhi-tech archwire,そして目立ちにくいと言う組み合わせは,治療計画を驚くほど簡素化する。これらの3つの要素が,passive self-ligation systemであるDamonのlow frictionでlow forceな矯正手法によって,素晴らしいcontrol性と結果を実現するという,従来の矯正手法に比べて驚くべき利点があることを臨床的に証明してき ていると説明している。

4) Smart clip(図9)Smart clip(3M Unitek社)はMBT Systemの特徴を生かすべく,その系統を引き継いだself-ligating bracketとして4年余りの歳月を費やして開発されたといわれている。その外見はまさにtwin bracketである。対になっているbracket wingの両外側にnitinol製のclipを装備し,archwireを保持する機構であり,これこそ真のself-ligating bracketであると自賛している。Archwireの着脱には専用の器具があるが,装着に関しては押し込むような力を加えれば良いので簡単である。た だし,wire sizeの増大によっては押し込む力も大きくならざるをえないため疼痛を伴うかもしれないことが危惧されるが,実際では患者が激しく痛がるということはな い。Archwireの取り外しに関しては無理に引っ張るとbracketの脱離が生じる恐れが高いので,専用器具を使用せねばならない。Dataでは装 着時よりも外すときにclipへのストレスがかかっていることを公表している。専用器具ではbracketの歯肉側のbracket wingを“てこ”にしてarchwireの取り外しを行う。専用器具はさらに改良が進んでarchwireの着脱がより容易になってきている。
Passiveなsystemとして予約間隔の延長と患者の不快感の減少を他のself-ligation systemと同様にうたっている。
また,見慣れたtwin bracketの外見と構造は,それまでの治療techniqueを変更することなく導入することができるので有利であるとも言っている。
様々な利点を訴えてはいるが,bracket wingの両外側にclipを装備している構造上,inter bracket spaceが減少するので,重篤な叢生や捻転を伴った部位で隣接の歯が近接しあった場合には不利である。  Smart clip の本体はstainless steelのtwin bracketである。nitinol製のclipはbracket wingの両外側に位置するように本体に機械的にはめ込まれている。これは将来審美的なceramic系統のbracketとの融合を意図して考案されて いることは明らかであろう。


<Self-ligation systemにおけるlow friction systemとその効果について>
Low frictionについては,それぞれのsystemによって,使用するarchwireのsizeとの関連や治療stageによって,passive, interactive,activeの使い分けがなされていて,治療の最初から最後まで同一levelのfrictionではあり得ない。

1. Low friction systemへのこだわり
1) Low frictionの始まりは?
Tweedはsingle bracketを使用した。もちろんのこと0.022”×0.028” slotである。一般的にtwin bracketのほうがcontrol性に優れると誤解しがちだが,それはrotationやtipの是正にやや有利であるというだけである。 Single bracketはinter bracket spaceが増大するので,より太いwireのたわみを利用したtipのcontrol性に優れる。Rotationのcontrolについては, Tweedは前歯部にはeyelet,後方歯群にはlingual cleatを使用した。問題はarchwireの形状である。Tweedの使用していたrectangular wireは真の矩形ではない。その断面はedgewiseが丸みを帯びていて,いわゆるrounded rectangular wireの形状をしている。これはすなわちround形状のwireを押し潰す成型方法によって作られているのである。このため,wireが bracket slotの底面と接触する面積が小さい,いや,接触しないと同等なのである。しかもsingle bracketであることはlow frictionそのものの考え方である。さらに,0.022” slotのsingle bracketであることは,細いwireを使用する場合にstainless steelしかない時代においてさえlight forceをも実現していたのである。

2) Bracketの構造に工夫を加えた試み
Synergy(RMO社,図10) はtriple wingsのbracket形態をしている。しかもbracket slot内面は3壁共に彎曲が付与されていて,wireとの接触面積を減らすことでlow frictionを実現させている。さらに,結紮の留め方によってfrictionの程度を調整でき,control性能を増減させることができる。結紮 方法の多様性によって初期のrotationのcontrolに有利だったり,sliding mechancsによる抜歯空隙の閉鎖の際に,歯群のブロックや個々の歯においてfrictionやcontrolの調整ができるので非常に有用であろ う。
Delta(Ortho Organizers社,図11) は名前のごとく三角形の形状をしていてSynergyと同様に結紮の留め方によってfrictionの程度を調整でき,control性能を増減させるこ とができる。Ceramic製のものもある。
従来の装置でのelastomeric tieではbracketにarchwireを拘束する力が働きこれがfrictionを生じせしめている元凶であった。しかしながら,上記に紹介した bracketはelastomeric ligatureがbracket wingの外側でarchwireをgripすることによる拘束力を排除できるよう構造に工夫がされていて,確実なcontrolのためには archwireを拘束することも可能であるという優れた性能を持っている。これら以外にも類似の考案を採用している製品は様々発表されてきており, self-ligation systemではないが,low frictionを実現させようとする試みが為されている。

3) 結紮attachmentによる工夫
Clear snap(デンツプライ三金社,図12) は2004年に市場に出た結紮のattachmentである。従来のstainless steel ligatureやelastomeric tieではない結紮方法として考案されている。Clear bracketと対をなすclipは透明白色で審美性を実現し,透明なelastomeric tieの着色や劣化,不潔さを排除し,archwireを拘束しない方式なのでlow frictionも実現させている製品である。
Clear snapのsystemでは,初期排列に0.010”もしくは0.012” Ni-Ti archwireを使用することを推奨していて,low frictionとともにlow forceによるself-ligation systemと同様の排列効果が得られるsystemである。また,このsystemで使用するように開発された0.2 mmの薄さを持ったextra super-light power chainは0.5 mmの厚みの通常のものに比べて非常に微弱な牽引力を発揮するので,self-ligation systemでの使用に最適である。
Neo clip(GAC社,図13)はClear snapと同様の製品で,自社のceramic bracketとの組み合わせでの使用で作られているが,日本では現在購入,使用はできない。
Slide(Leone社,図14) はelastomeric tieでありながらbracket wingの外側でarchwireを拘束しない。Elastomeric tieでのfrictionを排除するべく,いわゆる縦型の8の字結紮のような結紮方法と類似している。交叉する部分にあたる部位の面積が大きくとってあ りarchwireをより安定させる。
これらの工夫は従来のbracketを使用したlow frictionを実現させようとする試みである。

2. Active機構のself-ligation systemにおけるlow friction vs. control
1) SPEED System(図1)前 述のとおりself-ligating bracketのほとんどがいわゆるnon-active機構である。つまり,結紮の代わりにbracket slotの解放面に蓋をする機構だが,蓋をすればtubeにwireが挿入されている状態と同一になって,いわゆるbracketに結紮されている状態と は違うのである。Self-ligation system以外ではarchwireはbracketに対して結紮による拘束を受ける。この拘束が摩擦を生じる。もちろん結紮線による結紮や elastomeric ringによる結紮,これも0結紮と8結紮によって違うが,いずれにしても摩擦という問題が介在してくるのである。使用するbracket slotとarchwireの双方のsizeの条件によっても違うが,self-ligating bracketではarchwireのsizeが細くなればなるほど摩擦が減じ,というよりもほとんどなくなってwireの滑り摩擦による抵抗がなくなる のである。SPEED bracketはself-ligating bracketとしては珍しくactive機構であり,弾力性のあるspring clipでwireを保持するが,1990年にBerger4)はSPEED bracketにおけるspring clipでのwireの保持が,Edgewise bracketにおける結紮線による結紮やelastomeric ringによる結紮での保持に比べて受ける摩擦が非常に少ないことを証明している。
SPEED systemでは初期排列に微弱な矯正力を発現する7本巻きのnickel-titanium coaxial wireであるSupercable17)(図1-b)を 使用するが,これらの組み合わせはfriction freeのsystemである。Friction freeのsystemでは微弱な矯正力による排列の進行に際し,口唇圧のsupportにより前歯群のflare outを起こさずに,側方歯群は抜歯空隙に向かってmigrationを起こし自動的に排列される。このため,中程度の叢生においては犬歯の遠心移動など によって予め排列空隙の確保を行う必要がない。また,重度の叢生においては,SupercableをSPEED bracketに組み込まれているauxiliary tubeにdouble wire11,12)として併用することにより,排列空隙を確保しながら転位歯の排列を同時に行うことができる。非抜歯でもarch formの拡大が前歯群の前方へのflare outが抑制されながら行われる。この組み合わせによって混合歯列後期では6〜10週間,永久歯列や成人の症例においても3カ月程度で初期排列の目的を達 成できる6-8)。
SPEED bracketの特徴は組み込みのspring clipであり,さまざまな利点をも生み出している。SPEED Applianceでは不正な位置にある歯のSPEED bracketにarchwireが装着されるとwireから受ける力によりspring clipがたわみを起こす。この状態からwireとbracketとの関係をhome position(図15)という適正位置にcontrolすることにより不正の改善が行われるのである。Arch wireの弾力にspring clipの弾力が加味され(図16), 双方に蓄積されたenergyが徐々に解放されることによって歯の移動をするのである。Active self-ligation systemであるSPEED systemは,常にwire – bracket間の位置関係を姿勢制御していることに特徴があり,最大の利点である。
このarchwireとspring clipの相互作用について,著者17)は実験モデルでの計測で解明している。側切歯の1〜3 mmの転位を想定した実験の結果(図17), 1mm 舌側転位の場合ではNiTi系のround wireを使用し場合にSPEED bracketとの併用のほうがEdgewise bracketとの併用よりも有意に大きい値を示した。これは,NiTi系のround wireはwireのspring backが大きいため,1mm 舌側転位の状況においてSPEED bracketに組み込みのspring clipのたわみによる付加力が顕著に現れた結果である。このactionはSupercableを使用した際にも1 mm転位付近で現れていた。spring clipの効果は,著者が行った三点曲げ実験の結果でも如実に現れている(図18)。 周知のごとく形状記憶系のarchwireは曲げ試験のloading – unloadingの軌跡detaはhysteresis curveを描く。しかしながら,SPEED bracketでの結果はunloadingにおいて見事にflatな軌跡を示している。これは矯正力が一定の力で持続的に働くことを意味している。さら に,Supercableでは1mmの転位で発現している力のほうが2 mmで発現している力より大きいという,wireのたわみと力の関係では理解できない結果が現れている。これらのことは,SPEED bracketのspringがいかに効果的な影響を与えているかということの証明である。図19はSPEED systemによる上顎第一大臼歯の近心捻転の改善である。0.016” Supercableに引き続き0.016” Ni-Tiを使用した結果,2カ月2週後で第一大臼歯の近心捻転がほぼ改善された。SPEED systemでのspring clipによる歯の位置の姿勢制御は,このように効率的に働くばかりでなく,獲得された歯の位置はwireとbracketがhome position(図15)と いう関係を維持することにより,sliding mechanicsによる抜歯空隙の閉鎖の際などに大臼歯のlossは最低限に抑えられるので,加強固定などの特別な手段を講じなくとも良いのである。ま た,SPEED bracketはlow frictionの構造を有しているので,抜歯空隙の閉鎖時のsliding mechanicsの際の牽引力も弱い力で十分であるという事実もまた大臼歯のlossが起きにくい理由である。抜歯空隙の閉鎖による前歯部の後方牽引の 際にその固定源となる大臼歯は,まず,近心に引かれ近心捻転が最初に起こる。強い力によってこのような変化が起こると,初期の変化は回復されないで連続し た変化は近心移動という形で現れてくるのである。SPEED bracketにはこの初期の近心捻転という変化を常に是正する機構が備わっているために固定大臼歯のlossが起きにくいのである。以上がSPEED systemでhead gearやNance’s holding arch,Trans-paratal archなどの加強固定を必要としない理由である。
SPEED arch wire(図1-e)はrectangular wireの唇側歯肉側の角が丸められている独特の断面形態をもつarchwireで,SPEED bracketと同時開発され,治療の最終段階で組み込みのspring clipと協調して優れたtorque control性能を生み出す。
これらのように,SPEED systemはspring clipの弾力を背景に初期ではlow friction systemとして機能し,治療stepの進行と共に徐々にそのactiveなcontrol性を増加させていくが,あらゆる場面において,spring clipのactive actionは有利に働いているのである。

2) In-Ovation(図8)近年In-Ovation-R(GAC社図8-b) としてモデルチェンジし,組み込みのspring clipの呼称を“Interactive Clip”と改名したがごとく,その特徴としてinteractive forceを全面的に押し出して主張している。
GAC社は矯正歯科医師ならば周知のごとくBio Forceというarchwireのsystemを持っている。どの社も特徴的なbracketと一緒に,自社のarchwireと自社の接着剤を総合的 なsystemとして売り込んでいる。もちろんそれは,bracketとarchwireの組み合わせは,開発者の意図するところで,これらはsetであ ると考えて当然であろう。また,bracketに組み合わせて開発されるbonding baseにおいても各社で工夫された特色性を持っているので,それに最適な接着剤が開発されてしかるべきものであるが,矯正歯科材料の会社の前身の多くが 接着剤を得意分野にしていた背景が少なからず見えてくる。それはさておき,Bio Forceのarchwireは歯の組織学的な移動を通じて歯冠および歯根の是正に対して理想的な矯正力を発揮するように設計されているとし, Jarabakのroot resistanceにおける研究を背景に,Bio Forceは正中から後方歯群に向かって徐々にその力が増大しているが,歯根に対して過度の力にはならないと説明されている。Bio Forceはinteractiveな力を発揮し,優しくtorque力を伝搬しながら捻転を改善していくとしている。
また,In-Ovation -RとBio Forceのarchwireとの組み合わせによって,low forceを発揮するround wireではpassiveな機構,中間のsquare wireではinteractiveな機構を,rectangular wireからfull sizeではactiveな機構でfull controlすると説明している。

3. Passive機構のSelf-ligation systemにおけるlow friction vs. control
1) Activa(図4)Activa bracket(“A”-company社)は1980年後半に製造され,その頃に台頭してきたsliding mechanicの手法をself-engaging mechanismにより簡単にしたといっている。さらにself-engaging mechanismによる摩擦抵抗の減少によって歯が適正排列により早く移動すると説明しているごとくpassive機構をもったlow frictionのbracketとして著名である。開発者のIrwin Pletcherはfrictionの減少ということは歯の移動により弱い力が必要であるということであり,このことは患者に直接的な恩恵を寄与すると いっている。また,sliding mechanicsにおいてbracketにwireを拘束している何物かを取り除くことが有益であり,近年の研究ではmetal-to-metal contactのligature-less bracketでは従来の結紮されたbracketに比較して約半分以上の摩擦力の低下が認められていると述べている。滑走摩擦についての研究でSims ら20)はActivaの摩擦が一番少なく,SPEEDにおいてもstainless steel製のtwin bracketにおけるelastomeric tieによる0や8の字結紮に比較して摩擦が非常に少ないことを証明している。Kemp21)およびWeiss22)は,特に0°のtipの場合におい て,他のbracketと結紮に比べてself-ligation bracketであるActivaおよびSPEEDの摩擦が少なかったことを証明したが,10°のtipがbracket-wire間に存在すると,他の 組み合わせと同程度に摩擦が増加するということも示した。前出のPletcherはまた,tipとtorqueはbracketを拘束することを指摘し, straight wire techniqueでのrectangular wireのstageで確実な挿入ができればこの問題は簡単に解決できると説明している。これらのことなどによってActivaは正確で早いと主張してい る。

2) Time bracket(図5)そのrotational armというActiva bracketと同様の開閉機構に分類されるゆえにpassive機構のSelf-ligation systemの仲間として分類されるが,実際はTime 2(図5-b)で 組み込みのspring clipについて,interactive “smart” clipと表現しているように,完全なpassive機構とは考えにくく,どちらかといえばactive機構に近いと考えられよう。この interactive “smart” clipはround wireを使用する初期段階ではpassive ligationとして機能しながら,治療の最終段階でtorque controlのためにrectangular wireを使用する際にはinteractな効果を発揮していくといっている。使用するarchwireとの関連では, levelingやrotationとかtipの解放時に,low frictionのTime 2 bracketのslotを細いwireは容易にslideするといっている。また,passive self-ligating bracketについて,微少ながらも常に摩擦が生じており,さらにtorqueとrotationのcontrolの効率においては減少するため,治療 の最終段階では挫折的な挑戦に誘導していってしまうと批判する一方で,Timeの利点としてwireの径が増加するにつれて,Time 2のinteractive “smart” clipがwireをslotのcornerに押し込むことによってtorque効率の増大とrotation controlを向上させると主張している。

3) Damon 2(図6-b)およびDamon 3(図6-c)Damon はその治療の課程で3本のarchwireによる3つのstepを提案している。  まず最初のstepは,passive self-ligation systemの最大の特徴と主張される弱い力を発現するarchwire(0.013” Damon Copper Ni-Tiまたは0.014” Align SE Ni-Ti)を装着する。摩擦が少ない状況下で力の弱いarchwireを使用し歯の移動時の血流の中断を最小限度に抑えることで,生物学的に適合した歯 の移動が刺激され高い効率を生み出し23),患者の不快感を減らし,成人の治療期間を子供の治療期間に近づけたと主張している。このstepでは口腔周囲 筋(特に口輪筋と頤筋)が切歯のAPの位置を保って叢生を抜歯空隙の方向に排列させるといっている。非抜歯症例や狭窄歯列の改善ではarch formの拡大が頬側や後方に向かって行われる。これらのことについてはDamonは多数の症例をもって説明している。また歯槽突起の薄い骨もそれにつれ てreformされ拡大していくことをCT画像を用いて証明している24)。
次の段階では,捻転を確実にとることを目標としたstepで,0.016”×0.025” Align SE Ni-Tiを使用する。捻転のcontrolにはarchwireとbracket slotの深さに0.002〜0.003”の遊びがあることが重要であると説明し,Damon systemではbracketのdepthを0.027”に減らしているといっている。捻転歯には長期安定が必要とされるため,この段階で確実に改善を 終了させ,最終段階でcontorolを再び行うことによる刺激で安定を破壊してはいけないといっている。
第3 stepでは, 0.019”×0.025” preposted stainless steelを使用してのsliding mechanicsである。確実に排列されたbracket slotの連なりはsliding mechanicsの効果を最大限にするのである。牽引力にはNi-Ti closed coil springやElasticsを使用しているが,歯肉に刺激を与えたり不潔にならないように,装着方法を工夫している。これは前述の血流の必要性に起因 する骨改造との関連であることは明確である。
Sliding mechanicsに関連し,抜歯空隙の閉鎖だけがsliding mechanicsではないと,広義のsliding mechanicsを提唱し,passive self-ligation systemの利点を強調している。八重歯の改善,in-outのdiscrepancy,leveling,arch formの改善などあらゆる場面においてbracket slotとarchwireのpassiveな関係は必要かつ重要な問題であるといっている。
このようにDamon systemはpassiveであることを特徴として全面的に押し出しているが,superior tooth controlという項目の説明において,0.022”×0.027”のslotにfull sizeである0.019”×0.025”のarchwireがfull engageすることによってfull controlできると説明している。

4) Smart clip(図9)Smart clip Systemはpassiveであり,frictionについては画期的に減少させていると説明しているのみである。Archwireのprogress はMBTと同様0.016” heat-activate Ni-Ti,0.019”×0.025” heat-activate Ni-Ti,0.019”×0.025” stainless steelの3本としている。


<Self-ligation systemのLight force techniqueとその効果などについて>
Light forceについては,すべてのself-ligation systemで治療の初期段階において,同様にそのlow frictionの特製を活かして弱い力のarchwireを使用して効率的に排列を進行させる手法を用いている。

1) Auto alignment
いずれのSelf-ligation systemにおいても初期排列の効率が良いと報告され,実際の臨床例によって裏付けされている。Self-ligation systemを使用した者は,low frictionとlight forceの組み合わせによる効果を体験したとき,一様に目を見張り驚愕し,興奮が押さえきれない。それほどまでに明確な事実として新たな展望が広がるの である。
弱い力は口唇圧のsupportにより前歯群のflare outを引き起こすことなく,しかもlow frictionであるarchwireとbracket slotの関係は,抜歯症例の場合には抜歯空隙に向かって歯が移動しながら叢生は解除されるのである。これをWoodsideはauto alignmentと呼んでいる。調整は不要である。術者は忍耐をもってただ見守るのみである。高位唇側転位の犬歯は高位を解消しながら遠心方向に位置を 改善しながら押さえ込んでいた側切歯にその位置を譲るのである。否,側切歯の排列が犬歯の位置を抜歯空隙の方向に押しやっていくのかも知れない。口唇・頬 と舌との間隙に調和しながら叢生は2〜3ヵ月で自然に消失し,抜歯空隙は排列に利用されその空隙を減ずるが,臼歯群の近心移動によるものではない。非抜歯 症例では狭窄した歯列弓は拡大され,大臼歯の捻転までもが改善されていくのである。

2) Conrtrol vs. guide
上記のような初期的な変化はself-ligation systemでは特別なtechniqueを必要とされるものではなく,self-ligation systemとlight forceの組み合わせを使用すれば一様に得られるものである。これはもはや術者の技術で歯をcontrolしていくのではない。著者は最近,歯の controlという言葉を使用しなくなってきた。歯はlow forceによって適切な位置へとguideされていくのである。

3) Supercable
Supercableは7本巻きのNi-Ti coaxial wireである。SupercableはSPEED Systemの開発者であるHansonが彼の治療philosophyであるlight forceを用いる矯正方法の考えから,SPEED bracketとの組み合わせで使用するために1993年に開発された。著者は0.016” Supercableは0.022” slotのSPEED bracketとの組み合わせで使用したときに,1〜3 mmの転位の改善の際約60〜70gの持続的な力を発現していることを証明した(図18)。 この微弱矯正力はlight forceよりはるかに弱い力のため,minute forceと呼んでいる。これらの組み合わせもまた上記のlow frictionとlight forceの組み合わせであるからして,歯は適切な位置へとguideされauto alignmentされていくのである。図20にSupercable が発現するminute forceによるauto alignmentを理解できる症例を示す。症例は幼弱永久歯列の女児で,ある矯正歯科医が非抜歯にて治療を終了させた症例である。その矯正歯科医は第二 大臼歯の萌出を待たずに動的治療を終了させ,術後資料として撮影したパノラマX線写真を見て愕然とした。下顎第二大臼歯が両側共に水平埋伏していたのであ る。これを引き継いだ術者は,下顎両側第三大臼歯抜歯後,開窓した下顎第二大臼歯頬側面にtubeを装着し0.016” Supercableを装着してただ待ったのである。約半年で埋伏していた下顎第二大臼歯はその歯根を近心に振りながらほぼuprightし,それに引き 続く0.016” Ni-Tiの装着によって1年後には完全にuprightしたのである。

4) 0.014” Align SE Ni-TiもしくはDamon CU Ni-Ti
0.014” Align SE Ni-Tiもしくは0.014” Damon CU Ni-Tiは非常に優れたarchwireである。Archwireの形状は上顎,下顎,大中小の区別はなく一種類のみである。ただし,通常のarch formよりかなり大きく,後方歯群において拡大した形態をしている。
Damon philosophyは硬組織のcephalometricな判断基準を無視して,軟組織の対称性を重要視しているといっている。Damon systemのpassiveな構造はlow forceが顔面の筋肉や舌や骨や組織とともに働くようにさせていると説明し,強い力での拡大や抜歯などを用いずに数多くの症例で対称的な顔貌の獲得をも たらしていると主張している。
著者がSPEED bracketに0.014” Damon CU NiTiを組み合わせた症例(図21)で も,歯列弓の拡大によって歯列の対称性が目覚ましく改善した。症例は上下顎歯列の狭窄を伴う上顎歯列の非対称症例であったが,0.022” slotのSPEED bracketを装着し,initial wireとして0.016” Supercableを3ヵ月間使用した後,0.014” Damon CU Ni-Tiを2ヵ月使用した結果,5ヶ月間で上下顎歯列の拡大と再排列が起こり,上顎歯列の一小臼歯頬側咬頭頂間幅径は35 mmから40 mmまで拡大されて歯列は対称になった。

5) Supercable vs. Damon NiTi
Damon 3と0.014” Damon CU Ni-Tiの組み合わせは確かに秀逸である。この組み合わせを用いた症例を図22に 示す。わずか34日間で劇的な変化が現れた。しかしながら,この組み合わせを使用すると患者が痛がる場合が多い。矯正治療では弱い力を使用しても装着初期 の歯の動き始めには必ず多少の痛みがある。著者の医院では装置を装着した患者にはできるだけ次の日に電話をして様子を聞いている。少なくとも3日以内に連 絡を取る。患者の痛みは痛みの閾値の差や,我慢強さなどに左右されるが,痛みが全くないという場合はほとんどない。「我慢できる」や「食べられる」もしく は「大丈夫」とか「ほとんど痛まない」である。しかしながら,それまでの経験とスタッフたちの意見も参考にして確認したところ,0.014” Damon CU Ni-Tiを装着した場合は痛いという評価が多く返ってきていた。
これに比較して,Damon 3に0.018” Supercableを組み合わせて(図23)使用すると痛みの程度が軽減した返事が多いのである。Damon 3とSupercableの組み合わせでもfriction free systemであるので,3ヵ月程度までに初期排列は良好に進行(図24)(図25)(図26)す るのである。
Damon systemでは,最近0.013” Damon CU Ni-Tiを発売し,Damon自身が0.013”のほうがより組織に優しい反応を発揮するといっている。これはやはり0.014” Damon CU Ni-Tiがやや強めの力を発現していることによる上記の痛みを含めたさまざまなreactionが生じているからに相違ないと感ずる。
著者は0.014” Damon CU Ni-Tiの拡大力に注目し,SPEED bracketとも組み合わせて使用しているが,痛みのことを考慮してinitial archwireとしてSupercableを2〜3ヵ月使用してから,2nd archwireとして使用している。

6) In-Ovation-R
幼弱永久歯列期のI級叢生の抜歯症例にIn-Ovation-RとSupercableの組み合わせで治療を行った。Initial wireとして,上顎には0.016” Supercable,下顎には0.018” Supercableを装着した(図27-a)。 患者の上顎第二大臼歯は完全萌出しておらず,下顎第二大臼歯は左右側下顎第一大臼歯の早期喪失のため両側ともに近心傾斜していた。上顎第一小臼歯のみの抜 歯にて治療を進行した。上顎犬歯を頂点とする三角形の弱い顎間ゴムを併用し排列を促進させたが,3ヵ月後までに上顎歯列は前歯群のflare outを起こすことなく抜歯空隙に向かってauto alignmentし,下顎歯列においても第二大臼歯のuprightと捻転歯の改善が順調に進行した(図27-b)。SPEED bracketと比較するとbracket widthが大きめであることからinter bracket distanceが減少するが効果に大きな相違はみられない。また,装置周囲の清掃状態も良好に保てた。

7) Time
Time bracketのspringは歯肉側に回転して開き,SPEED bracketのspring clipは咬合面方向に開くので,archwireを押し込む方向が正反対である。双方の比較のため上顎6前歯,下顎第一小臼歯間に右側でTime bracket,左側でSPEED bracketを装着して治療を行った症例(図28)の 治療後半で,rectangular wireの唇側歯肉側の角が丸められている0.020”×0.025” Ni-Ti SPEED arch wireを使用したところ, Time bracketのspring actionによってbracketとの接触部位でwireに摩滅が生じた。Time bracketで太いrectangular wireを使う場合は問題はないと思われるが,SPEED archwireを使用する場合には天地を逆にしたほうがよいことがわかった。初期排列の効果などについては他のself-ligation systemと同様の効果であった。

8) Smart clip
Smart clipのarchwireのprogressはMBTと同様で,0.016” heat-activate Ni-Tiをinitial archwireとして使用する。7週までに初期排列の効果は十分な早さで進行するが(図29),Inter bracket spaceが狭い分,重篤な叢生や捻転を伴った部位で隣接の歯が近接しあった場合wireの装着が困難であり,無理をするとwireに多少変形が残るよう である。症例では3週後のcheck時に新しいarchwireを再装着している。7週後では図の成人男性の症例でも0.016”×0.022” heat-activate Ni-Tiが装着できるまで側方歯の捻転が改善した。

9) Clear snap
Clear snapは上述のごとくclip typeの結紮用attachmentである。Clear bracketに装着するだけでfriction freeを実現させ,初期排列に0.010”や0.012” Ni-Ti archwireとの組み合わせでself- ligation systemと同様にauto alignmentの効果や,患者の痛みの軽減が認められる。この方法をsuper light-force techniqueと称している。図30はこのsystemを使用した非抜歯症例の経過である。0.012” Ni-Ti archwireの装着でわずか2ヵ月間で初期排列の目的を達成し,上顎では0.016”× 0.022” Ni-Ti gold archwireが装着された。図31は このsystemにDamonの0.014” Align SE Ni-Tiを使用した,転医してきた再治療症例である。装着から2ヵ月の間に目覚ましい変化が起きている。Clear snapが供給するfriction freeのsystemはDamon archwireの利点を十分に発揮させ,archwireのguideによって個々の歯の再配列が進行し上下顎歯列弓がreformされていくにつれ て,上顎歯列弓の拡大と下顎大臼歯のuprightが起こり,わずか2ヵ月で効率的に咬合の改善がなされた。


<Lingual self-ligation systemや半透明Self-ligation systemについて>
これらのbracketなどのattachmentは審美性を要求する患者に対してその利用価値が非常に有用である。しかしながら,その特性上の欠点を 十分に患者に説明する,いわゆるinformed concentの必要性があると思われる。
審美bracketの使用について著者は他の矯正歯科医によく質問される。質問する歯科矯正医は「金属だから目立つので患者が受け入れてくれない,目立 ちにくいbracketでないと患者が治療を希望しないので逃げてしまう・・・」などと訴え,「SPEED bracketは金属なのでやはり不利でしょう。よく患者さんがOKしますね・・・」と哀れみをもった感心を表現する。しかしながら,著者にはSPEED bracketが金属であることは何ら問題ないのである。要するに患者に治療の目標が「早く,よく治って,後戻りしない」ことであると理解させればよいの である。著者はあえて最初に従来型の金属bracketと審美bracketを見せて両者の違いについて説明する。そのときのkey wordは「審美bracketの利点は目立ちにくいことだけである」である。その他はすべて金属bracketのほうが勝るのである。厚みをもった形状 も,欠けやすいとか摩滅しやすいとかについても,治療時間が余計にかかることも,治療効果での妥協点が残ってしまいがちであることも,透明の elastomeric tieが着色してしかも不潔であることも・・・,すべてが金属bracketに負けてしまう欠点である。そのようなことを理解させたうえで,金属だったら SPEED bracketが特に有利であることをself-ligation systemの利点という観点から説明するのである。治療期間の飛躍的短縮,痛みの軽減,秀逸の治療効果,傑出した治療結果・・・,つまり早くよく治って 安定し,しかも痛みが軽減する方法であること説明するのである。その結果,ほとんどの患者さんが「SPEED applianceで治療してください」と申し出るのである。

1) Evolution SLT bracket(図32)Evolution SLT bracket(Adenta社)はTime bracketのlingual typeのbracketである。Lingual bracket systemでのbracket positioningのtransferのためにindividual transfer capとsmart jigという部品がbracketに付属される。Interactive spring clipと称する開閉機構はTime bracketのrotational armと同一のものである。

2) SPEED bracketのlingualへの転用(図33)著 者は再発した下顎前歯群の中程度の叢生にしばしばSPEED bracketのlingualへの転用を試みる。下顎前歯群での叢生の発生は再発と定義するよりも,晩発性叢生としてとらえたほうが適当な場合が多い。 多くの成人では,下顎前歯の中程度の叢生に対して,気にはなるので治療はしたいが装置を着けたくないと訴える場合が多い。このような場合には lingualからのアプローチが適当である。SPEED bracketはsingle widthのbracketなので,下顎前歯群の舌側に転用する際にも有利である。さらに,近年の開発によりspring clipがNi-Ti製になり,開閉のためにspring clipにlabial windowが設けられたので,舌側に装着しても開閉操作が容易である。ただし,位置づけが困難なため適正位置に装着できない部位が生じる場合が多く, archwireの屈曲が必要になる場合が多い。また,build-in torqueは舌側用にset upされていないので,rectangular wireの使用はできない。

3) Oyster ESL bracket(図34)Oyster ESL bracket(Gestenco社)は世界初のmetal-freeのself-ligating bracket systemとして発売された。当時,金属アレルギーの問題がclose upされていたので,金メッキなどのbracketが市場に出てきていた。Oyster ESL bracketはsnap-on capという開閉機構によってarchwireを保持させた。しかしながら,copolymerという非金属素材は着色しにくいが,使用できる archwireの種類が限定され,superelasticやbeta-titaniumなどの柔らかいarchwireしか使用出来ない。 Elastomeric tieによるarchwireの拘束がないので,slot内をarchwireは自由に滑走でき,従来の結紮をしないでよいので口腔組織に優しいとしてい る。

4) Opal bracket(図35)Opal bracket(Ultrandent社)はlow frictionでpassiveのself-ligating bracketであるとうたっている。半透明のnickel freeでglass filledの素材で作られている。着色に強く,破折に強い一体成型のbracketであるといっている。Self-ligatingの機構はより能率的 な歯の移動を実現し,歯への圧力も軽減し,歯のエナメル色と調和する素材色と審美的で滑沢な表面構造は,患者の満足が得られるものであろうと宣伝してい る。

5) Clear button(図36)Clear button(デンツプライ三金社)は同社のClear snap systemで使用するために開発されたbracketに類似した外見のbuttonである。開閉機構はなく,tube構造の水平の穴が開いている attachmentである。Wireを装着して,叢生の強い部位に一時的に装着する。


<SPEED systemで出来ること>
以下にさまざまな症例を紹介するが,著者はどのようなtypeの症例でも1年半を目安に治療をする。II級でもIII級でも,抜歯でも非抜歯でも,成人 でも子供でも同様である。成人では抜歯症例の方が非抜歯症例より治療期間が多少長くかかるが,成長期の子供では抜歯,非抜歯で差がない。やはり,I級叢生 で一番治療期間が短く1年未満で終了できる症例も多い。現在までの最速は成人I級叢生治療の8ヵ月である。いくら治療期間が短縮しても術後の安定がなくて は意味がない。SPEED systemで治療した症例は術後長期にわたって安定している。これはself-ligation systemについて上記に述べてきたさまざまな利点の総合的な恩恵によるものであろう。

症例
1(図37A〜C)
混合歯列期II級1類非抜歯症例。Initial archwireとして上下顎に0.018” Supercableを装着して治療を進行した。治療開始後4カ月1週後に下顎で0.020”×0.025”のstainless steel SPEED archが装着でき,固定源として確実となった。この約3週前の3カ月2週後より2.5 ounce(約80 g)のII級顎間ゴムを約3カ月装着させ,さらに2カ月半側方で垂直顎間ゴムを装着させて咬合を安定させ,治療開始から8カ月3週で装置を撤去した。大臼 歯関係はsuper class Iの関係にまで改善された。この咬合は保定期間を通じて維持され,術後2年8ヵ月経過した時点でも良好な大臼歯関係を保っていた。Damonは 0.014” Damon CU NiTiがDamon systemにおいて良好な歯列弓の拡大を伴った変化を起こしていくと言っているが,SPEED systemにおいても同様な変化が起きている。治療結果を評価したところ,歯列弓の幅径は第一小臼歯間で上下顎共に術後で約6mmの増加をし,保定中に 約1mmの戻りがあった。

症例2(図38 A〜C)
成人II級1類非抜歯症例。術前に上顎前歯の著しい前方傾斜があり,大臼歯関係はfull stepのII級咬合を呈していた。患者は矯正治療診断前に第三大臼歯を上下左右共に抜歯してから紹介されたため,上顎大臼歯の抜歯の選択ができなかっ た。側貌が良好で,頭部X線規格写真の分析値では下顎前歯がupright(FMIA = 66.5°)しており,FMA = 19.5°と非抜歯適応症例であったため,患者に上顎左右側第一小臼歯抜歯による治療か非抜歯治療かを選択させ,患者の協力の確約を得た上で非抜歯治療を 開始した。  著者は,大臼歯群の遠心移動時や小臼歯群の遠心移動時に2本ずつ同時に遠心移動を行う。これは,SPEED Applianceのsliding mechanicsの使用に有利であるというlow frictionの利点によって実現している手法である。SPEED User’s Guideや成書1)に紹介されているoriginal stepでは1本ずつ遠心に移動していく方法であり,この手法は著者の発想である。
上下顎歯列弓が良く排列され,下顎に固定源としてfull sizeである0.020”×0.025”の stainless steel SPEED archが装着できたならば,上顎にdual-dimension archwireを装着して大臼歯の遠心移動をII級顎間ゴム装着下で開始する。この際のII級顎間ゴムの力は2.5〜3 ounce(約70〜85 g)程度で十分である。Dual-dimension archwireはSPEED systemでは0.021”×0.021”×0.020” Dual Geometry arch(前歯群が0.021”×0.021”のsquare wireで犬歯以後が0.020”のround wire)が供給されている。しかしながら,この症例では前歯群のfull controlのため,前歯群は0.020”×0.021”のstainless steelのSPEED wireで犬歯以後が0.020”のround wireのものを自作し,brass wireを接合部にロウ着してpostとした。
大臼歯群の遠心移動:第一大臼歯の遠心移動には第一小臼歯と第一大臼歯の間にnickel-titanium opened coil spring(50 gもしくは100 g)を挿入して行う。この際第二小臼歯にはbracketを装着していない。これにより,第二大臼歯は第一大臼歯の移動時に一緒に押されて遠心移動する。
小臼歯群の遠心移動:大臼歯群の遠心移動が終了したら,第一大臼歯bracket近心にstopを付け,nickel-titanium opened coil springを犬歯と第一小臼歯の間に移動して小臼歯群の遠心移動を行う。この際第二小臼歯は第一小臼歯の移動時に一緒に押されて遠心移動するので bracketの装着はしないでも良い。II級顎間ゴムは常に装着を義務付ける。
犬歯の遠心移動と前歯群の後方移動:小臼歯群の遠心移動が終了したら,引き続き犬歯の遠心移動を行う。coil springは除去し,犬歯bracketのhookに直接II級顎間ゴムをかけて遠心移動させる。この際archwireに立てたpostにもII級顎 間ゴムを併用して前歯群の後方移動も同時に行う。
咬合の安定:第二小臼歯にもbracketを装着して,第二大臼歯までarchwireを延長し,第二大臼歯遠心でarchwireをcinch back(著者は歯肉方向でなく内側に曲げる)してspaceの再発を防ぎ,full sizeである0.020”×0.025”の stainless steel SPEED archにて仕上げを行う。この際II級顎間ゴム装着下で犬歯部付近に垂直顎間ゴムを使用する。
この症例においては術前に患者に十分説明し,II級顎間ゴム装着などの協力が十分得られたため,動的治療期間は19ヵ月であった。顔貌の改善もなされ, 十分な上顎前歯の後方移動が達成できため,術後3年3ヵ月の経過では,側貌はより自然なものへと安定した。

症例3(図39-A,B)
成人
II級2類上顎左右側第一小臼歯抜歯症例。上顎前歯の著しい後退を伴う過蓋咬合で,大臼歯関係はfull stepのII級であった。側貌の良好なII級2類の典型症例である。II級2類症例はできれば非抜歯,抜歯する場合も上顎のみで下顎の抜歯は禁忌であ る。それは下顎大臼歯の近心移動が困難で,下顎前歯のさらなる後退が起こるといわゆるdish in faceになって口唇の後退が著しい口元がさみしい顔貌になってしまうからである。Full stepのII級の改善のために下顎第二小臼歯の抜歯を行うと抜歯した空隙を全て近心移動しなければならない。この症例は成人であり,下顎大臼歯群に補綴 治療がなされているのでなるべく多くの歯を残しさらに治療期間の短縮を図るためにも下顎は非抜歯である。
治療は上顎先行で着手した。0.016” Supercableをinitial archwireとして装置した時点から,2 ounce(約60 g)の顎内ゴムを装着させて排列を助けた。4ヵ月後に下顎に装置が着けられるまで上顎歯列の改善がみられた。15ヵ月後までに上下顎歯列に装着した archwireが平行になるまでに改善し,上顎大臼歯の近心移動が許容されたので,III級顎間ゴムを使用して上顎大臼歯群の近心移動をさせながら咬合 の安定を図った。動的治療期間は19ヵ月で終了し,顔貌調和した良好な咬合が獲得された。この咬合は術後6年6ヵ月を経過しても良好に維持されている。

症例4(図40-A,B)
永久歯列
III級開咬非抜歯症例。治療前のoverjet は0.5 mm,overbiteは–1.5 mmであった。Initial archwireとして,上下顎共に0.018”Supercableを装着した。治療開始時から犬歯相当部に3 ounce(約85 g)の垂直ゴムをIII級の効果を出させるように使用させた。垂直ゴムの効果が2カ月で効果的に現れたので,同様の垂直ゴムを継続させてoverbite を維持したまま順次wireのsizeと硬度を増していった。
治療開始8カ月後には上下顎に0.020”×0.025”stainless steel SPEED wireが装着できた。最終的な咬合の安定のため,下顎後方歯群より装置を撤去していった。犬歯相当部での垂直ゴムは治療を通じて変更せずに継続して掛け させた。
動的治療期間は14カ月で良好な咬合状態が獲得された。Overjet,overbiteともに確保された。咬合法X線撮影法にて上顎前歯群の根尖の状 態を確認した結果,歯根の吸収はほとんど認められなかった。
垂直ゴムの継続使用に関して心配されることは歯根吸収の問題であろう。弱い顎間ゴムを使用すれば,長期にわたらなければ問題は無いようである。しかしな がら,最初から犬歯部で掛けさせたり,wireにpostを立てて使用させるようにして上顎側切歯部での歯根吸収が他の部位に比較して多く生じることへの 対策をとることが良策である。

症例5(図41-A,B)
成人III級非抜歯症例。患者は術前に僅かながら顎の後退が可能であった。Initial archwireとして,上下顎共に0.020”Supercableを装着した。3ヵ月後に0.017”×0.022” Heat-Activated Nitinol wireを装着し,archwireに余剰部分を設けることにより咬合のjumpをさせた。10ヵ月後には上下顎にfull sizeである0.020”×0.025”stainless steel SPEED wireが装着できたので,さらに半年安定させ,動的治療期間16ヵ月で治療を終了した。

症例6(図42-A,B)
成人
I級反対咬合抜歯症例。下顎前歯の著しい唇側傾斜があった。上顎左側側切歯が残根状態のう触であったため,上顎では左右惻々切歯,下顎では左右側第一小 臼歯を抜歯して治療を進行した。治療開始時から下顎犬歯のbracketのhookに3 ounce(約85 g)の顎内ゴムを使用させて排列を助けた。6ヵ月後に上顎に0.020”×0.025”nickel-titanium SPEED wireが装着できたので,下顎に0.020”stainless steel round wireを装着し,上顎を固定源として3 ounce(約85 g)の顎内ゴムと顎間ゴムの併用により下顎前歯の後方移動による被蓋の改善をしていった。良好な咬合が獲得されたので,動的治療期間16ヵ月にて治療を終 了した。

症例7(図43)
成人骨格性
III級反対咬合抜歯症例。下顎の後退性の無い限界症例であった。下顎左右側第一小臼歯の抜歯により治療を行った。動的治療期間19ヵ月で良好な咬合が獲得できた。


<まとめ>
現在では様々なSelf-ligation Systemが発表され現在利用できるsystemも数多くあるが,それらが利点として持っている特徴は大差なく皆同様である。それらは,chair timeの減少,感染防護に有利,歯周組織への優しさ,痛みの軽減,通院間隔の延長,動的治療期間の短縮などであろう。Ligature wireとかelastmericとか,その他のattachmentなどによる結紮という行為が省けることで素晴らしい発展性がある。
chair timeの減少はSelf-ligationたる特徴最大のものであろう。BergerとByloffによる報告25)では,上下顎のarchwireの 交換のために上下顎第2小臼歯間の合計20カ所での結紮の解除と再結紮に要する時間の合計はSPEED Systemにおいては50数秒であるのに対し,elastomeric ligatureでは200秒を超え,その差は約4倍であり,Steel ligatureにおいてはてさらにelastomeric ligatureの約4倍もかかっていたことを示した。また,この報告では,比較したその他のDamon SL, Twin Lock, Timeのself-ligating bracketにおいてもSPEEDに比較して劣るとはいえelastomeric ligatureと比較して格段の時間節約になっている。SPEED Systemはパンフレットで,elastomeric ligatureとの比較において,患者一人で150 秒の節約が出来るということは,1日に25 人患者を診ると仮定すると合計 3750 秒つまり 62.5 分で1日に約1時間もの時間が節約できるのであると紹介している。
Steel ligatureにおけるpig tailの処理における術者の手指の損傷事故の危険性と比較するとself-ligation systemでは感染防護に有利という利点が生まれて当然であろう。また,pig tailによる患者の口唇や頰粘膜の損傷やelastomeric tieでの不潔さと比較して歯周組織への優しさという利点が生まれてくる。
Low frictionという問題に関してはSelf-ligation systemでのfrictionの大小は, passiveもしくはactiveとしてwire sizeの大小により評価される。Self-ligation systemではpassiveあるいはactiveといった区別とは無関係に,前述の如くそれぞれのsystemによって,使用するarchwireの sizeとの関連や治療stageによって,passive,interactive,activeの使い分けが為されていて,治療の最初から最後まで同 一levelのfrictionではあり得ない。
総じて評価するならば,いわゆる初期段階でのalignmentにおいてはlow friction(passive)であり,抜歯空隙の閉鎖や犬歯や大臼歯の遠心移動などsliding mechanicsを使用する際にはinteractiveなcontrolであり,最終段階に至るにつれてwire sizeの増大によってideal positioningではactiveなcontrolという一連の流れがSelf-ligation systemでの治療では起こっているのであろう。
Light forceという問題に関しては,self-ligation systemでは初期段階では皆 light forceを使用して,low frictionの特徴を最大限利用して排列の促進とreactionの軽減という一見相反した目標を難なく同時に達成させているのである。このことは患 者に対して痛みの減少と快適性という利点を提供する。
Self-ligating systemというと特別な装置のように聞こえるが,その実態はpre-adjustedのEdgewise Applianceであり,ただarchwireの保持に関してself-ligationという機構を持っていることが結紮からの解放という問題の解決 だけでなく様々な利点をも生み出しているのである。Pre-adjusted Appliancedとしての問題点としてしばしば取り上げられてくる問題として,bracketやarchwireの平均値でのset-upに関しての 問題,言い換えれば個々の症例のpersonalizeの問題がある。誰にでも合うということを裏返せば,誰にも合わないということになるのである。この 問題について論じれば,wireの遊びが作用してpersonalizeされていると考えている。特にself-ligation systemではbracket – archwire間でのactionによって個々の歯はcontrolされるというよりguideされ新しい環境にadaptationしていくことで改 善が起きていくのであろう。すなわち,術者の治療手技によって完璧にcontrolし,必要に応じてovercorrectionという対処によって術後 の安定を図る従来の手法とは考え方に多少の相違がある。術者は完全なcontrolを行わないのである。完全なcontrolは受け手である患者自身の組 織がするのである。Damonも言っているが,従来の方法でも良好なfacial balanceは獲得できるが,self-ligation systemによってある条件を整えてやれば口腔周囲の組織は協調して良好な反応をfuzzyに示してくれるのである。治療計画で目標とする理想的な咬合 状態に変化させようと無理矢理押しつけても果たして術後の安定はするのであろうか。技術的背景に裏付けられた的確な診断ができれば,経験豊かで卓越した技 術があれば,患者の協力が十二分に得られて治療が良好に進行すれば,確かに申し分の無い治療結果が得られて,安定することは間違いないのであろう。しかし ながら本来歯が並びたい場所に並べるようにfuzzyにguideし,個体の本来持っている回復力に任せてpersonalizeされた咬合は安定するこ とは間違いないであろう。この点についてDamonの提唱するBiocompatible Orthodonticsと同意見である。
著者はstraight wire techniqueでbracketのslot sizeにおいて,0.018”slotか0.022” slotかという問題に関してしばしば討議する。その際に初期排列ではarchiwireは柔らかければ柔らかい程良いという観点から,たとえば 0.014” nickel-titianium round wireを使用する際に0.018”slotとの組み合わせと0.022” slotとの組み合わせでは,どちらがarchiwireはより柔らかく作用できるか?と問う。また,sliding mechanicsでの抜歯空隙の閉鎖の際にreactionが少ないためにはarchiwireは堅ければ堅い方が良いという観点から,full sizeより対角線で約12%細いという近似条件で,0.018”slotと0.016”×0.022”との組み合わせと0.022” slotと0.019”×0.025”との組み合わせの場合に,0.016”×0.022”のarchiwireと0.019”×0.025” のarchiwireのどちらが堅いか?を問う。いずれの答えも0.022” slotが有利であるという答えは明らかである。これらの事実は,上述のlow frictionとlight forceという問題で述べたself-ligation systemにおいてのpassiveからactiveという治療の流れと同源であろう。これらの無駄を省いた一連の治療の進行こそが通院間隔の延長や動 的治療期間の短縮といった利点を生じせしめているのであろう。
治療の進行の無駄を省くということでは,治療stepの単純簡素化が理想である。これはoffice managementの立場からも各々の診療室での課題であろう。しかしながら,私たち矯正歯科医の多くは症状の多様性という幻想にとらわれて手をかけす ぎる傾向がある。患者を前にすると何かしたくなるのである。これは,wire bendingの達者な,治療技術に自信のある矯正歯科医ほど陥る過ちである。特にself-ligation systemでnicke-titaniumなどのhigh technology archwireを組み合わせで使用する場合では頻繁にwierの交換をする必要は全くないので,少なくとも3ヵ月は効果を静観する必要がある。極端な言 い方をすれば,その間放置してもかまわないのである。しかしながら,bracketの脱離やwireの破折など治療の進行を妨げる偶発的な問題が生じ,患 者自身も気がつかない場合があるので,定期的にcheckした方が良い。そのため通院間隔は長めても6週間程度が妥当であろうと考える。
この治療stepの単純簡素化に関しては,Damon system 0.022” slotでは,0.013” Damon nickel-titanium,0.016”×0.025” align SE nickel-titanium,0.019”×0.025” preposted stainless steelの3本である。Smart clip system 0.022” slotではMBTと同様0.016” heat-activate nickel-titanium,0.019”×0.025” heat-activate nickel-titanium,0.019”×0.025” stainless steelの3本としている。
著者の考える抜歯症例でのstepは,初期排列,arch formとtorqueの改善,sliding mechanicsによる抜歯空隙の閉鎖,最終咬合の確立の4 stepで,SPEED system 0.022” slotでは,初期排列には0.018” Supercable,arch formとtorqueの改善では0.020” stainless steel〜0.020”×0.025” nickel-titanium SPEED archwire,sliding mechanicsによる抜歯空隙の閉鎖には0.021”×0.021”×0.020” dual geometry stainless steel,最終咬合の確立にはもしくは0.020”×0.025” stainless steel SPEED archwireの4〜5本である。非抜歯症例では,上顎大臼歯の遠心移動が必要な場合には抜歯症例と同様のarchwireの進行であり,上顎大臼歯の 遠心移動が必要とされない場合にはsliding mechanicsのstepが必要とされないので,初期排列にもう1本nickel-titaniumのhigh technology archwireを使用する場合がある。
抜歯症例と非抜歯症例,叢生の度合いによって診断が違うが如く,その治療に必要とされるstepにも症例によって相違があるが,著者の選択として治療の 進行において下記のことが望ましいと考えている。

1. 初期段階の排列の際 low friction system で配列を誘導する。
2. 痛みの軽減のためにinitial arch wireとしてSupercableを使用する。
3. Arch formの獲得のためにthirmo-activated typeのarchwireを使用する。
4. Sliding mechanicsの際にはintreractive mechanismが望ましい。
5. 最終的に歯根の配列を確実にするためにはactive actionが必要である。

などである。これらは著者にSPEED Applianceの使用を促している。とはいってもこの結論は単なる個人的な選択の結果であり,他のいかなるsystemを批判したり否定するものでは 決して無い。Self-ligation systemに限っては,冒頭で述べた如くそれらが利点として持っている特徴は大差なく皆同様であるということはその効果にも大きな格差は無いと言うこと である。ただし,あえて言うならば,使用するsystemの利点と欠点を良く理解し,そのsystemの持っている特徴を最大限に生かした使用法を心がけ るべきであろう。

参考文献
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